鏡よ鏡、鏡さん。
私を美しく写しておくれ。
この一瞬だけで構わないから。
魔法をかけて。
2023.8.18.鏡
ひとり防波堤に座り海を見つめた。
人も、鳥も、船も、何もいない。
ひとりぼっちみたい。
なんだか寂しい。でもいい気分。
昼間の暑さでにじんだ自分の輪郭が、
夜風できちりと押し固められて、
なんだか別の自分になったみたい。
夜の海のおとは静かで、清らかな感じがする。
風も穏やか。案外暖かでやわらかい。
ぬるい風が涙の跡を拭った。
またね、今日の私。
2023.8.16.夜の海
つまらないことでも
挑戦してみるといい。
失敗しても気にしなくていい。
皆、あなたのことはあまり気にしていない。
あなたのように、自分を気にしているから。
だから何か一つ、
興味の持てそうなものを
さがしてみるといい。
たくさんの経験から
新しい何かを見つけられたら、
それだけですてきなことだから。
2023.8.4. つまらないことでも
がらがら、がら、と大きな音を立てて崩れていった。
「膝前十字靭帯断裂」「アキレス腱断裂」
それが俺の死刑宣告。
陸上部のエースだった俺は、この夏に死んだ。
事故だった。
隣のレーンで走ってたヤツが上手くハードルを避けられなくてバランスが崩れた。そして俺のレーンに倒れた。俺がソイツを避けようとして、失敗した。
ただ、それだけのこと。
後輩だというソイツは泣きながら俺に謝ったいた。
人懐っこそうな顔をくしゃくしゃにして、ぼろぼろと涙を流していた。悪いことしたなぁ、と思った。
少し、鬱陶しいとも思った。
ごめんなさいも、俺のせいでも、要らなかった。
俺が欲しかったのは、確かな「大丈夫」だった。
お前は、まだ走れる。
お前のハードラー人生はまだ、終わっていない。
その言葉だけで良かった。
それでも現実は理不尽で、お医者さまは俺の欲しい言葉をくれない。言うのはひとつ、諦めろ。
もう、元のように走れない。
ハードルを飛ぶことが出来ない。
記憶にないが、それを聞いた俺は暴れまわったらしい。面会が出来るようになったのが3日前。後輩が来たのが昨日。あれからぼんやり過ごして1日。
あっけないもんだなあ。
コワレモノの脚を見つめて、そう思った。
真っ白な病室とマッチしない、黒く焼けた肌が恨めしくて仕方がなかった。
生ぬるい風が、気持ち悪かった。
こういう時、漫画の主人公なら違ったんだろうな。
リハビリとかケアをして、また羽ばたくんだろうな。
でも俺は、そんなふうになれない。
そう思ってしまったから。
無機質な病室の窓から見た、鮮やかな入道雲の白に泣きたくなった。
2023.8.2. 病室
_明日、もし晴れたら。
早起きしてみようか。
三文の徳というし、
どこか遠くへ遊びに行ってみようか。
_明日、もし雨なら。
昼まで寝てみようか。
陽が高くなるころに起きて、
そのままだらだらと過ごしてみようか。
まあでも、決めるのは明日のあたしだし。
明日の朝でも、遅くないはず。
ああ、もう寝なきゃ。
どっかで見てるカミサマが、きっと良くしてくれる。
2023.8.1 明日、もし晴れたら