Fiorella

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がらがら、がら、と大きな音を立てて崩れていった。


「膝前十字靭帯断裂」「アキレス腱断裂」 

それが俺の死刑宣告。
陸上部のエースだった俺は、この夏に死んだ。


事故だった。
隣のレーンで走ってたヤツが上手くハードルを避けられなくてバランスが崩れた。そして俺のレーンに倒れた。俺がソイツを避けようとして、失敗した。

ただ、それだけのこと。


後輩だというソイツは泣きながら俺に謝ったいた。
人懐っこそうな顔をくしゃくしゃにして、ぼろぼろと涙を流していた。悪いことしたなぁ、と思った。

少し、鬱陶しいとも思った。
ごめんなさいも、俺のせいでも、要らなかった。
俺が欲しかったのは、確かな「大丈夫」だった。

お前は、まだ走れる。
お前のハードラー人生はまだ、終わっていない。
その言葉だけで良かった。

それでも現実は理不尽で、お医者さまは俺の欲しい言葉をくれない。言うのはひとつ、諦めろ。


もう、元のように走れない。
ハードルを飛ぶことが出来ない。

記憶にないが、それを聞いた俺は暴れまわったらしい。面会が出来るようになったのが3日前。後輩が来たのが昨日。あれからぼんやり過ごして1日。


あっけないもんだなあ。
コワレモノの脚を見つめて、そう思った。

真っ白な病室とマッチしない、黒く焼けた肌が恨めしくて仕方がなかった。

生ぬるい風が、気持ち悪かった。


こういう時、漫画の主人公なら違ったんだろうな。
リハビリとかケアをして、また羽ばたくんだろうな。

でも俺は、そんなふうになれない。
そう思ってしまったから。


無機質な病室の窓から見た、鮮やかな入道雲の白に泣きたくなった。


2023.8.2. 病室

8/2/2023, 4:48:24 PM