巡り逢い 「こっちに恋」「愛にきて」 です
巡り逢い
「あれ?もしかして…」
休日に、少し遠くにあるショッピングモールに出かけたら、声をかけられる。
「ん?」
「やっぱりそうだ。元気だった?」
振り返った先にいたのは、学生時代の同級生。
「うん、元気だよ。そっちは?」
「見ての通り、元気だよ。それにしても、こんなところで会うなんてね」
「ホントだよ。普段なかなか来ないところに、たまたま来ただけだからさ」
「そうなんだ。こういうのって、巡り逢い。っていうのかな」
「そうかもね」
連絡先を知らない人に偶然会う。そう言ってもいいと思う。
「じゃあさ、その巡り逢いにかこつけて、連絡先交換しない?」
「うん、いいよ」
スマホを取り出し連絡先を交換する。
ここで会えた偶然を、偶然で終わらせないぞ。
と思う俺だった。
「こっちに恋」「愛にきて」
「ねえ、明日会えない?」
仕事が終わり、家に帰っている途中、彼女から連絡が入る。
「大丈夫だよ」
そう返すと
「良かった、突然ごめんね。会いたくなっちゃって」
と、かわいい返事が来る。
「うれしいよ、俺も会いたい。んで、どうする?俺がそっちに行く?それとも、こっちに恋よ…なんてな」
冗談っぽく書くと
「…愛にきて」
彼女に、そう書かれる。
「わかった。愛に行くね」
そう送信しながらも、今すぐ会いたくなってしまったのだった。
ささやき big love! どこへ行こう です
ささやき
「…うーん、先に休もうかな」
帰りが遅くなる。と言って仕事に行った彼を、日付が変わるギリギリまで待っていたけれど、このままではここで寝てしまう。と自覚したので寝ることにしたはずが…。
「ん?」
いつの間にか寝てしまっていたようで、何かの音で意識が浮上した。
「ねえ、起きて。風邪引くよ」
音の主はどうやら彼らしい。あ、帰って来たんだな。そう思うけれど、重い瞼は持ち上げられず、目を閉じたまま声を聞いていた。
「…起きそうにないか。じゃあ、ベッドに運ぶかな」そう言うと、私を軽々と抱き上げ、起こさないようになのか、ゆっくりと寝室まで歩き出す。
「そうっと、そうっと」
そして、私をベッドに降ろすと
「遅くまで待っててくれてありがと。愛してるよ」
私の髪を撫でながらささやき、頬にキスをすると、彼は寝室を後にしたのだった。
big love!
「ねえ、俺の話、つまんない?」
ファミレスで向かいの席に座り、フォークを持ったまま、ぼんやりしているキミに話しかける。
「え?何?」
ハッとした様子で、俯けていた視線を俺に移すキミに
「だーかーら、俺の話、つまんない?」
再度聞いてみると
「そんなことないよ」
慌てた様子で否定する。
「でも、心ここにあらず。って感じだよね」
「え?そんなこと、ないって」
俺の指摘が合っているからなのか、キミは気まずそうに視線をそらす。
「お互いにさ、仕事が忙しくて、しばらく会えなかったじゃん。だから俺、やっと会えるんだ。ってすげえうれしくて、今日が来るのを楽しみに待ってた。短い時間でも電話はできたから声は聞けた。けど、声だけじゃキミが足りなくて、すぐにでも会いたい気持ちをずっと我慢してた。それだけ俺は、キミのことが恋しくて仕方なかったのに、キミは違うの?」
そう問いかけると
「私だって、私だってすごくあなたに会いたかったよ。でも、忙しいのはわかってたし、会いたいなんてワガママ言って、迷惑かけたくなかったの。だから、辛いことがあっても我慢して…今だって、聞いてほしい話はあるけど楽しい話じゃないし、あなたまでイヤな気分にさせちゃったらって…」
今にも泣き出しそうな表情になる。
「あのさ」
俺はキミの隣に移動し
「キミが辛い思いしてたり、困ってることがあって、俺に話を聞いてほしい、会いたい。って思ってくれるなら、いつだって会いに行くよ。仕事も大切だけど、それ以上にキミが大切だからね」
「つっ…」
キミの髪をそっと撫でると、キミの頬を涙が濡らす。
「いつでもキミを、俺のbig love!で包むから、我慢しないで俺を頼って」
キミの涙を指で拭うと、泣きながらもキミは微笑んだのだった。
どこへ行こう
「おお、良い天気だな」
昨日までの雨が嘘のように、青空が広がる休日。
「家にいるのはもったいないか」
と、出かけることにしたのはいいけど、さて、どこへ行こう。
「買い物…って、天気関係ないな。うーんと、そうだなぁ…」
数分考え
「あはは、やっぱりここは親子連れでいっぱいか」
俺が来たのは動物園。仕事で忙しく疲れた身体を、大好きな動物に癒してもらおうと思ったのだ。
「かわいいなぁ」
柵に寄りかかり動物を眺めていると
「ママぁ、動物しゃんねんねしてるぅ」
小さな子がしゃがみ込み、動物を見てほほ笑んでいる姿が目に入る。
「もう少し小さな声でね。…すみません」
母親が俺に頭を下げるけど
「いえいえ」
小さな子にも癒される。
親になる。って大変なことの方が多いだろうけど…結婚もいいな。っとその前に相手を見つけなきゃ。と思った休日になったのでした。
街灯がなく、人通りの少ない夜道を、星明かりの下、キミと手を繋いで歩く。
「星の明かりだけだと、暗いね」
「そうだね。今みたいに、月が雲に隠されちゃったら、暗いよね」
しかも、月が雲に隠れていて、その姿は全く見えない。
「こんなに暗いと、私1人だったら怖くて歩けなかったよ」
「ああ、女性1人だと怖いよね」
確かにそうだよな。と思い、キミに同調すると
「あなたがいてくれて良かった」
キミは俺を見てふわっと笑う。
「あなたがいてくれると怖くないし、繋いだ手の温かさで、安心できるよ」
今すぐ抱きしめたい衝動を抑えるように、繋いだ手に力を込めたのだった。
「ねえねえ、これ知ってる?」
休み時間、隣の席の子に話しかけられる。
「ああ、影絵あそびのキツネだよね」
「うん、そう。知ってるんだね」
俺が知っていたことがうれしいのか、その子はにこにこ笑う。
「小さい頃にやったことあるよ、懐かしいな」
「懐かしいよね。でもこの前、小さい頃にした遊びの話になってこれを言ったら、知らないって人がいたんだよね」
「へえ、そうなんだ」
授業開始のチャイムが鳴り、会話はそこで終わったけれど、俺は影絵遊びをしていた頃を思い出していた。
「これと、これを合わせると何かに見えない?」
「うーん、どうかなぁ」
小さい頃よく遊んでいた女の子。確か、兄貴の友達が連れて来てた妹だった。兄貴たちは兄貴たちで遊んでたから、俺がその子の相手をしていたんだった。
「あの子、今はどうしてるんだろうな」
俺のこと、覚えているだろうか。なんとなくその子のことが気になり、家に帰ったら兄貴に聞いてみようと思うのだった。
授業中、ななめ前に座るキミの背中を見ていた。
振り返られたら困るくせに、こっちを見ないかな。って思いながら。
キミのことが好きだって自覚したのはいつだっただろう?
気づけば、キミのことばかりを見ていた。
そんなある日、キミに用事があり話しかけると、キミは顔をほんのり赤くし、俺から視線をそらしたのだ。
ただ、恥ずかしかっただけかもしれないし、人見知りなのかもしれない。けど、キミがそういう人だとは聞いたことはない。
もしかしたら…俺は物語の始まりを予感し、胸を高鳴らせたのだった。