涙 と 春風とともに です
涙
ハラハラと零れ落ちる涙が、キミの頬を濡らしてく。
そんなキミを目の前に、俺は何と言っていいのかわからず、口をつぐんでいた。
けれど、泣いているキミをそのままにしておくことなんてできないから
「ごめんね。俺、キミを慰める言葉が見つけられない。だから、思い切り泣いて、泣き止んだら、俺に笑顔を見せてほしいんだ」
キミをギュッと抱きしめ、泣き止むまでずっと優しく、髪を撫でていたのだった。
春風とともに
「遅れてごめんね」
春風とともに届いたキミの声。
「ん、大丈夫だよ」
春風のように温かく、僕の心をふわりと包んでくれる。
春風に舞う桜の花びらのように、風に乗って遠くに行かずに、ずっと僕の隣にいて。
と、願わずにはいられないほど、キミが大好きな僕だった。
毎日、忙しく仕事をこなす中、僕が感じる小さな幸せは、休憩中に缶コーヒーを飲むことでも、家に帰ってからの晩酌でもなく、仕事中に交わすキミとの会話。
僕にとって、高嶺の花であるキミと話せたら、それだけで幸せ。
それだけ?と言われそうだけど、僕が仕事に行く、理由の1つになっているのは間違いない。
これからも、キミと会話するのを楽しみに、仕事に行こうと思います。
「すごくキレイ」
青空が広がり、散歩するには快適。という今日、キミと公園に来た。
「ホントだね。まさに、春爛漫って感じ」
公園内を進むたび、いろいろな種類の花たちが大きく花を咲かせ、来た人たちを歓迎しているようだった。
「今日は温かいし、気持ちがいいね」
「そうだね、少し暑いくらい…」
とそこで、キミは足を止める。
「どうしたの?」
一歩先にいる僕が振り返ると
「…春から夏って、だんだん暑くなっていくとさ」
「うん」
「汗をかくでしょ」
「まあ、そうだね」
「そうするとさ」
「うん」
「手、つなげないなって…」
キミは俯く。そんなキミの言葉にクスッと笑うと
「何で笑うの」
顔を上げたキミが、僕を睨みつける。
「ごめんごめん。かわいくてつい」
なだめるようにキミの髪を撫で
「キミがイヤじゃなければ、僕はいつでもキミと手を繋ぎたいよ」
手を出すと
「イヤじゃないから、手を離さないでね」
キミは僕の手を取り、微笑むのだった。
「ねえ、見てみて」
雨上がりの空を、キミは指差す。
「おっ、虹か。でかいな」
「ホントに大きいね。しかも、七色がはっきりしてて、すごくキレイ」
キミはスマホを取り出し、虹に向ける。
「ねえ、知ってる?」
キミは写真を撮りながら、僕の方をちらりと見て
「カップルが一緒に虹を見ると、2人の関係が進むかも…なんだって」
顔を赤くする。
「へえ、そうなんだ。でも…」
僕はキミを後ろから抱きしめ
「虹を2人で見ていなかったとしても、キミを手放す気なんて、全然ないよ」
そう告げると、キミの顔は、さらに赤くなるのだった。
まとめてですみません。
bye bye… 曇り もう二度と 記憶 です
bye bye…
「もうさ、バイバイしようよ」
「…え?」
突然の彼の言葉に、バイバイって何?今日のデートはもう終わりってこと?それとも…別れるってこと?と、呆然としていると
「自分に劣等感を持つのはさ」
ニコッと笑われる。
「…何…言って…」
「さっきからさ、すれ違う人と自分を見比べては、ため息吐いてるでしょ」
フッと笑われ
「…見られて、たんだね」
気づかれていたことに困惑して思わず目を逸らすと、隣にいた彼は私の目の前に立ち
「俺は、キミがキミだから好きになったし、そのままのキミと一緒にいたいと思ってる。だから、誰かと比べることはもうやめよう」
私の目を見つめ微笑む。
「…でも」
泣きそうな私の髪を撫で
「すぐじゃなくてもいい。キミが自信を持てるように、俺も想いを言葉にするから。ね」
優しく諭され
「…うん、頑張る」
「よし」
頷く私の髪を、彼はぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、ニッと笑った。
「もう」
ぐしゃぐしゃになった髪を押さえつけながら
「bye bye…今日までの私」
そっと呟き、前を向くように笑ってみたのだった。
曇り
デートの待ち合わせに向かおうと外に出ると、曇り空が広がっていた。
「曇りかぁ」
いつもなら空を見上げため息を吐くところだけれど、今日はどんな天気でもニコニコだった。
「だって、キミとデートだから」
キミと会える日は、僕にとってはいつでも晴れ。
「早く行こ」
晴れやかな気持ちで、僕は待ち合わせ場所に向かうのだった。
もう二度と
「もう二度としないように気をつけます」
俺の目の前で頭を下げる部下。発注数を間違えて多くしてしまい、上司である俺が、何とかしたのだけれど…。
「気持ちはわかった。だから、頭を上げて」
「はい。本当に、すみませんでした」
謝罪をし、彼は頭を上げる。
「今回は何とかなったし、そんなに気にしなくてもいいよ。今度から気をつけてくれれば」
「…はい」
と言っても、落ち込んだ彼の顔は晴れない。
「ミスは、気をつけていてもしてしまうもの。だから、ミスをするのは仕方のないことだと思う。俺もするしね。ただ、ミスに気づいたらすぐに知らせてほしい。早ければ早いほど対策の仕様があるから、そこはお願い」
「はい」
「何かあったときのために俺はいるんだから、ミスしたら。なんて考えないで、今まで通りに頑張って。頼りにしてるよ」
笑顔で彼の肩をポンと叩くと
「はい。期待に応えられるように頑張ります」
いつもの頑張り屋な彼に戻る。
失礼します。と俺に背を向けた彼の背中を見ながら、負けないように俺も頑張らないとな。と思うのだった。
記憶
「俺と付き合ってください」
ずっと好きだったキミに想いを告げると
「…考えさせて、ください」
キミは悲しそうに目を伏せる。
「うん、返事は急がなくていいよ」
笑顔で応えたけれど、内心では
イヤって言われなかったんだし、望みはあるかな?
とか
すぐに断るのは申し訳ない。って思って、返事を後にした。とか?
と、ぐるぐると考えていた。けれど、そんなことを考えながらも、悲しそうな顔をするキミのことが気になり
「…もしかして、俺に想われるのはイヤだった?」
そんな言葉が口をついて出た。
「え、違う、そんなことない」
2人きりで話すことはないけれど、みんなでいるときに話すと笑顔を見せてくれる。その笑顔を独り占めしたいな。という思いから好きになったキミに、迷惑だと思われるのはイヤだった。
「じゃあなんで、そんなに悲しそうなの?」
「…私ね、男の人が恐いの」
胸をギュッと押さえ、キミは俺から目を逸らす。
「え?」
「想いを伝えてもらえてうれしいのに、ずっと2人きりでいるのは、できなくて…」
そう言って俯くキミに
「それって、何かそうなる出来事があったってことだよね?」
「…うん」
「なら俺が、そのイヤな記憶を、楽しい記憶に変えられるように頑張るよ」
俺は笑顔を向ける。
「でも…」
「今は、友達みんなで話したり、遊んだりしよ。そうやって過ごす中で、俺と一緒にいても大丈夫だ。って思えたら、付き合ってくれますか?」
「…ありがとう」
目を細め笑うキミに、キミが笑顔でいられるように頑張らないと。と思いながら、笑みを返したのだった。