手紙の行方 と あなたは誰 です
手紙の行方
「キミのことが大好きです」
スマホという便利なものを持っているのに、僕は今、手紙を書いている。
というのも、小さい頃から仲良くしていた幼なじみ。
キミが遠くへ引っ越したとき、まだ僕たちはスマホを持っておらず、知っているのは親が聞いた引っ越し先の住所だけ。いつも一緒だったキミがいないことが淋しくて、キミがどうしているか気になって、手紙を出した。そのことがきっかけになり、スマホを持っている今でも、手紙でやり取りをするのが習慣になっていた。
「何してるの?」
手紙を書いていると、家事を終えたのか、エプロン姿のキミがコップを持って現れる。
「キミに手紙を書いていたんだ」
コーヒーの入ったコップを受け取り微笑むと
「え?私?」
キミは目をパチクリさせる。
「手紙をやり取りしてたのが懐かしくてね。書いてみたんだよ」
書き終えた手紙を渡すと
「ありがとう」
キミは目を細め、手紙をエプロンのポケットにしまった。
「また、宝物が増えたわ」
うれしそうに笑うキミに
「これからも増やしていこうね」
僕も笑みがこぼれた。
僕たちがやり取りしていた手紙の行方。
それはもちろん、ここにある。
結婚して、一緒に住むときに持って来た、僕たちの宝物。
ずっとずっと大切にしようと、僕は思うのだった。
あなたは誰
「あ、まただ」
夢から覚めるといつも思う。
夢で見る、あなたは誰なんだろうと。
私の名前を呼びながら、私に向かって手を伸ばす。
そして私も、知らないはずの彼の名前を呼び、伸ばされた手をつかむ。
「知ってる人?…いや、でも…」
彼の正体はわからない。
けれどいつか、彼に会える。そんな気がしていて、いつ会えるのか、その日が来るのが楽しみで仕方ない。
「よし、起きよう」
その日を楽しみに、私は今日も頑張るのだった。
「結婚してください」
無数の星が、夜空を埋め尽くす海で、キミにプロポーズすると
「うれしいです、ありがとう」
キミは口元を手で押さえ、涙を流す。
その涙は、キラキラ輝く星たちよりも
美しくキレイな輝きを放っていたのでした、
君の声がする と 時間よ止まれ です
君の声がする
意識が浮上すると、何かの音が聞こえる。
「朝だよ、起きて」
よく聞いてみると、僕を起こす、君の声がする。
「起きないと遅刻しちゃうよ」
君の言う通り、起きないと遅刻しちゃうのは確実。
けれども僕は、君の声をもう少し聞いていたくて、寝たふりをするのだった。
時間よ止まれ
ジリリリリ―。
部屋中に、目覚まし時計のベルの音が鳴り響く。
「ああ、朝か」
目覚まし時計のベルを止め、起きないと…とは思うものの、まだ眠い。
「まだ寝たい。時間よ止まれ」
そう願うけれど、時間が止まるわけもなく、しぶしぶベッドを降りるのだった。
そっと伝えたい と ありがとう です
そっと伝えたい
キミを優しく抱きしめ、そっと伝えたい。
「大丈夫、キミが頑張ってること、僕は知ってるから。と」
言われた仕事は、残業してでも期日までに終わらせてるし、コピー用紙や足りない文具を、率先して補充してくれてる。
小さなことかもしれないけれど、キミのおかげでスムーズに仕事ができてること、僕は感謝してるよ。
キミが、仕事ができることに嫉妬して嫌がらせされ、落ち込んでいる。と知った。
だからこそ今、僕はキミに伝えるよ。
ありがとう
ありがとう、いつも僕を支えてくれて。
妻のキミが、家のことを頑張ってくれているから、僕は安心して仕事を頑張れるし、お疲れさま。って笑顔で言ってくれるから、疲れも消えて、笑顔でいられる。
遅く帰ることが多いけれど、定時で帰れる今日は、キミへの感謝を伝えるために、ケーキを買って帰ろうと思った。
「今度の休日、買い物に行きたい」
会社から帰宅し、部屋でくつろいでいると、スマホの通知音が鳴る。
「いいね、どこまで行こうか?車で行くなら俺が迎えに行くよ」
通知は彼女からで、通知画面を見ただけで、今日の疲れが和らぐのを感じる。
「行きたい店がいろいろあるの。だから今回は電車がいいかな」
「わかった。じゃあ駅で待ち合わせだね」
「うん。楽しみにしてる」
今度の休日は彼女とお出かけ。大切な予定を、未来の記憶として心に刻む。
「よし、頑張ろう」
彼女と楽しい休日を過ごすためにも、抱えている仕事をきっちり終わらせるぞ。と気合いを入れる俺だった。