変わらないものはない と 手ぶくろ です。
体調を崩しました。
みなさまも、ご自愛ください。
変わらないものはない
「あれ?ここ、何だったかな」
久しぶりに通った道。いつの間にか、見たことない店ができていた。
「思い出せないなぁ。何だっただろう」
考えてみるものの、やっぱりわからない。
「うーん、ま、何でもいいか」
考えてもわからないので、気にしないことにして、さらに歩いて行くと、何かあったはずの場所が更地になっていた。
「…変わらないものはないんだなぁ。人も景色も。同じように見えて、日々、変化している。けどさ」
僕は空を見上げ
「何年一緒にいても、ずっと変わらず愛せる相手に出会いたいな」
そう思うのだった。
手ぶくろ
「寒いねえ」
会社帰り、キミと2人で駅に向かう。
「ホントに寒いですね。コートとマフラーだけじゃ…あっ」
コートのポケットに手を入れたキミが、声を上げる。
「どうしたの?」
「ポケットに入れたはずの手ぶくろがないんです。デスクに落ちてるかも」
両手に息を吹きかけ、シュンとする。
「あー、俺は持ってるけど…そうだ」
俺は手ぶくろを片方キミに差し出し
「片方だけどどうぞ」
と言うと
「でも…」
キミは戸惑った表情になる。
「それを着けて。で、もう片方は…」
そっとキミの手を握り
「イヤ…かな?」
恐る恐る聞いてみると
「いえ、温かいです。手ぶくろお借りしますね」
キミは微笑むのだった。
仕事帰りに、予約しておいたケーキを僕が持ち帰り、
キミが家で、料理を用意している。
「ただいま」
家に帰れば
「おかえりなさい」
キミと子どもたちが笑顔で迎え
「ほら、ケーキだよ」
ケーキを見せると
「早く食べよう」
子どもたちがはしゃぎだす。
「サンタさん、来てくれるかな」
食事をしながら
「いい子にしてるから、きっと来てくれるよ」
話が弾み笑顔が溢れる。
僕の理想のクリスマスの過ごし方。
その理想を手に入れるために、理想を叶えてくれる恋人を探そうと決意した、
イブの夜。
俺は1人、デスクに向かっていた。
「は〜あ。相手がいる人はいいよな」
俺にも恋人がいたなら、きっと、イルミネーションを見て、夜景のキレイなレストランで食事でもするのだろう。けれど、俺にはそういう相手はいない。
「…今ごろみんな、恋人とのデートを楽しんでるんだろうな」
部署のほとんどの奴らが定時で帰っている。
「けどさ、待ち合わせに間に合いそうにないからって、終わってない仕事を俺に押しつけなくてもいいだろ」
文句を言う前にさっさと帰られ、あとでトラブルになっても困るので仕方なくやっていた。
「来年こそは、押し付ける側になってやる」
静かな部署に響き渡るほどの大声で、誓うのだった。
「ハァ、ハァ」
俺は今、人混みを縫うように走っている。
「ヤバい。時間過ぎてる」
今日はクリスマスイヴ。デートの待ち合わせに間に合うように会社を出るはずが、遅れてしまい、待ち合わせ場所へ走っていた。
「遅れて、ごめん」
待ち合わせ場所に着くと、すでにキミが待っていた。
「そんなに遅れてないし、気にしなくて大丈夫だよ」
微笑んで許してくれたキミに、俺は一安心した。けれど、
「ありがとう。けど、もう一つ、謝らなきゃいけないことがあって…」
「ん?どうかしたの?」
「ごめん。キミへのプレゼント、用意できなくて」
「え?」
「本当にごめん。あとでになっちゃうけど、必ず用意するから」
キミへのプレゼント。何も用意できなかったことを謝ると
「プレゼントなら、もうもらってるよ」
キミは優しく微笑む。
「え、俺は何も…」
「仕事、忙しかったんでしょ」
「……」
「それを理由に、デートをキャンセルする人もいるだろうに、あなたはそれをしなかった。それどころか、待たせないように。って、走って来てくれた。私のことを大切に想ってくれてる。その気持ちをプレゼントしてもらったよ。ありがとう」
キミは俺の背中に腕を回すと、ギュッと抱きしめてくれたのだった。
「ただいま」
玄関を静かに開け中に入ると
「おかえりなさい。遅くまでお疲れさま」
キミが笑顔で迎えてくれる。
「こんな遅い時間まで、起きて待っててくれてありがとう」
時刻はもうすぐ0時。普段なら寝ている時間だ。
「ちょっとうたた寝しちゃったけどね。おかえりって言いたくて」
あはは。と笑うキミに心が温かくなる。
「疲れたでしょ。お風呂に入浴剤を入れてあるから、ゆっくり温まってきて」
「入浴剤?」
今まで入浴剤は入れたことがないのに?
「最近、帰って来る時間が遅いでしょ。だから、少しでも疲れが取れたら。と思って、ゆずの香りの入浴剤、入れてあるから」
「ありがとう」
キミの気遣いと優しさが嬉しくて、明日も仕事を頑張ろうと思えたのだった。