フグ田ナマガツオ

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6/30/2023, 1:48:39 PM

私は幼い頃から人と人を繋ぐ赤い糸が見えた。
「運命の赤い糸」という言葉は知っていたが、これがそうだとは思わなかった。
なぜなら恋人の間にひとつもないから。
だけど、最近ようやく分かった。
運命の人と巡り会うことなんて、ほとんどないことなのだと。

6/29/2023, 10:11:34 AM

夏に潜む切なさの正体が知りたくて。
世界から夏を奪った男はそう言ったらしい。
地軸が平行になった世界では、日本に夏は訪れない。
空気の循環が狂って、寒冷化しどの季節も少し寒い。
反抗するように私は水着で海に繰り出して、かき氷を食べる。
赤道付近の国や、極地に近い国が領土を奪うため戦争を始め、基本的に世界はめちゃくちゃになった。
敗色濃厚の中、自国の管理機能すら働かなくなって、国内は思うがまま暴徒が暴れているらしい。
彼がこんなことをしなくても、私はその切なさの正体が分かる気がしていた。
熱狂のさなかに身を置くと、それが終わってしまった後の
彼を失った私には分かる。
世界をこうしてしまおうとしていた私達はきっと熱狂の中にいて、冷めることが怖かったのだ。
馴染めない世の中に戻らなきゃいけないのが怖くて、全部めちゃくちゃになってしまえばいいと思ったんだ。

6/28/2023, 9:21:09 AM

宛先もなく旅に出て、当然のように資金が尽きた。
家の倉庫にあった中で、唯一金に替えられそうだった時計を持ってきたけれど、見るからに安そうだ。
振るとカラカラと音が鳴るし、二束三文のガラクタであることは疑いようがない。

「ここまでかなあ」

福岡からウネウネと北上して、今は東京だった。
旅立つ前に家も解約したから、戻る場所すらない。
時計を握って、公園に項垂れたまま、時間だけ流れた。

6/26/2023, 3:18:58 PM

君と最後に会った日の記憶はいまでも克明に思い出せる。
60年前と比べた街の風景はかすかな面影だけ残して、ほとんど変わってしまった。
高架下で絞めた首の感触は今でもぬるい。

6/26/2023, 9:44:43 AM

風が撫でれば花弁が落ちるほど繊細な花は、いつもショーケースの中にいる。
繊細な花は自分が閉じ込められている理由を知っているし、たまにショーケースを開けて水をくれる人が、自分を大切に扱ってくれているということも分かっていた。
彼は時間が来ると、ショーケースの小窓を開けて、水をくれる。
そして、今日の出来事や思ったことを繊細な花に教えてくれる。

繊細な花はその時間が好きだった。
彼の言葉はいつも優しくて、語る世界は彩りに溢れていた。
このまま続けば良いといつも思うのだ。

彼が部屋を出ることが増えた。
明るくなる前に家を出て、暗くなってから帰ってくる。
表情は活き活きとしているように見えた。
一緒にいる時間は減ったけど、繊細な花はそれでも嬉しかった。
彼が楽しそうに話すのを聞いているのが好きだった。

そのうち、彼が帰るのが遅くなった。
前までは家にいる日もあったのに、最近は毎日朝早くから家を出ていく。
表情は沈んで、しおれているように見えた。
繊細な花は彼が心配だった。

彼は相変わらず繊細な花へ水をくれて、話をしてくれた。
だけど、彼の言葉は少しずつ変わっていった。
トゲついて、ザラついて、語る表情も深刻そうで。
繊細な花はそのことが悲しかった。

ある日、彼は帰ってきても、繊細な花に水をやらなかった。
帰ってくるなり、泥のように眠ってしまって、朝が来ると慌てて出ていった。
繊細な花の花弁が一枚、落ちた。

そんな日がいつしか増えていって、ついに繊細な花の花弁は1枚になった。
命が終わりに近づいている自覚はあったけど、枯れたくないとそう思う。
その日、彼はまだ日が高いうちに帰ってきた。
なんだか清々しい顔をしていて、繊細な花も嬉しかった。

彼は繊細な花に語りかけた。
彼がごめんねとしきりに繰り返すから、謝ることなんてないと伝えたかった。
目を合わせてくれたのは久しぶりだった。
彼とたくさん話すことができて、繊細な花は幸せだった。

彼は最後に「ありがとう」と言うと、銀色に光るものを持った。
尖った方を胸に当てて、笑顔を見せた。
昔の彼に戻ったように見えた。
部屋の真ん中に鮮やかな赤が咲いた。

夕焼けが差し込む部屋で、繊細な花は生きる意味を失った。
繊細な花に水をあげる者はもういない。
そうして部屋の真ん中と隅っこで、一人ずつ枯れていった。

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