午後
窓辺に座ると
やわらかな午後の光が
雲間から差している
疲れ切った体に
あたたかい光があたる
ああ
陽の光って
こんなに暖かかったんだ
どうして忘れていたんだろう
生まれたばかりのころは
陽の光の暖かさ
青空の高さ
雲の柔らかさ
この世の全てが
清らかに見えた
いつから僕は
こんなに悩み苦しんで
冷たい底なし沼に
沈み込んでしまったんだろう
いつから
生きることへの楽しさより
責任感や義務感や罪悪感を
感じるようになったのだろう
ただ生きている
それだけが
嬉しかったあの頃へは
もうもどれない
僕には生きる義務がある
使命もわかってる
だけどふと
全てを投げ出して
あの空へ
あの汚れのない世界へ
戻りたい
そう思ってしまう
僕はなぜ地球に来たんだろう
あの遥かな宇宙から
地球に向かった
あの記憶
ああ
この地球(くに)は
僕の故郷(ふるさと)じゃない
僕は宇宙人だ
いつかあの遥か彼方の
夜空の一つの星
僕の魂の故郷へ
戻れるのだろうか
きっと人生を全うするまで
神様は
僕が帰るのを
許してくれないんだろう
そう
だから頑張るよ
自分の使命はわかってるから
心が
苦しい
痛い
感覚が麻痺して自分の体でない気がしてくる
喉が乾いて焼け付くよう
唇は乾き切って割れて血の味がする
なぜ
心の傷は見えないのだろう
心が血だらけでも
相手が子供なら
思春期だから
で片付ける
じゃあ
思春期終わった二十歳の僕は
どうすればいいのですか?
思春期すぎても全然楽じゃない
毎日死にたいって思います
みんな死にたいと思うには
理由があるのに
思春期という理由で片付けないでくれ
「思春期終われば楽になるよ」
って言われたけど
全然楽になれないです
大人ってなんですか
過去を
克服するなんてできないよ
思い出したくないのに
何度も反芻してしまう
勝手に涙が溢れてくる
忘れることも克服もできないよ
夕焼け雲を見上げると
高く高く
まだ碧い空が続いている
淡いピンク色の雲の隙間から
金色の光が溢れる
僕は今
夕暮れの川辺にいる
夕日の色が
川に映っている
水の表面は
淡いバラ色だが
よく見ると
青く黒く重く
水が流れている
まるで
僕の心のようだ
表面は
明るい笑顔で
内面は
苦しさ
悲しみ
恨みの感情が
渦巻いている
ふと僕はおもう
このまま
川の中に
この全てを投げ出して
自分を消せたら
どんなに楽かと
水に溶かし込んで
消し去りたい
この悲しみも
寂しさも
何もかも
自分の鼓動
生きてる証を聞くたびに
わけも分からない罪悪感で
息苦しい
ガラスのかけらが
心に突き刺さるようだ
出ない涙が
胸の奥
心の傷から溢れ出る
ああ
苦しい
誰か助けて
でも誰にも言えないんだ
僕には
救われる資格なんてない
このまま全部投げ出せたら
あと一歩踏み出せば
このまま水の中に
飲み込んでもらえるのに
だけど
そう思うたび
いつも引き止められるんだ
僕の心の奥にいる
たくさんの霊たちに
僕は感じるんだ
自殺してしまった少年
生まれてこられなかった子
戦争で亡くなった方の霊
たくさんの人たちの想いを
彼らは
僕が死にたいと思うたび
哀しい目で僕を見つめるんだ
「そんなに悲しむな。君は1人じゃない。」
「私は君みたいな子に生まれたかったよ」
「まだ希望はある。諦めてはだめだ。」
僕ははっと思う
そうだ僕はいろんな命に生かされて生きてる
僕が見つめるこの景色は
僕という存在を通して
今まで生きたかった人たちが
見つめているのかもしれない
この身体も心も
ふと自分のものではない気がする
きっとそれは
僕が
たくさんの人たちの気持ちを
背負っていきているからだ
今までどんなにつらくても
今まで生きのびられたのは
彼らがいてくれたから
「いつも守ってくれてありがとう」
僕がそう思って
目を閉じて祈ると
彼らは優しく
僕を見てくれる
僕と彼らの気持ちは
共鳴している
まるでこだまのように
肩からスッと力が抜けて
重苦しい気持ちが
夕焼けの空に
溶け込んでいく
僕は川に背を向ける
彼らに生かされている限り
頑張って生きよう
諦めたいと思っても
最後まで足掻こう
自分に与えられた使命を
全うしよう
そんな強い決意を持って
朝目が覚めると
カーテンを開ける
だるい
体が鉛のように重い
気分も苦しい
寝ている間だけは
苦しいことも悲しいことも
忘れていられる
だけど目が覚めれば
また海の波のように
苦しみがおそってくる
一晩眠れば
元通りに元気になれる
そう思ったのに
苦しさは消えてはくれない
昨日の涙は
渇き消えても
心の底では
涙が溢れて止まらない
それでも朝はやって来て
カーテンを開けて
元気なふりをして
吐き気がしても無理に食べて
笑顔で無理に頑張って
もう限界なんだ
いつまで続くんだこのループは
いつかこの苦しみが去って
また昔のように爽やかで
希望に満ちた朝を
迎えられますように
それまでもう少し頑張るよ
ああ
今日も生きたなあ
夕日を見上げると
僕は思う
このままこの体も心もすべて
あの夕焼け雲に溶かし込んでしまいたい
この苦しさも寂しさも
心の奥が
突き上げるように痛む
心の傷から
出ない涙が溢れ出る
心が痛む理由も
涙の理由も思い出せないんだ
夕焼け雲
ただ遠く遠く
赤く淡く光る
思い出すのは
生まれる前の
純粋な気持ち
ああ僕は
頑張って生まれてきて
頑張って生きているんだ
久しぶりに自分を認められた
束の間のひと時