【涙を拭って】(お題:目が覚めるまでに)
ぱっ、と目を開けた先に待っていたのは
物が何一つなく、ただ綺麗な青空と草原が
広がっている不思議な世界。
不審に思いつつも歩を進めてみる。
するとそこには見覚えのある後ろ姿があった。
(なん…で?)
私の声が届いたのだろうか。
こちらに振り向いて目をまんまるにして驚く君。
「…会いたかった」
こちらこそ、もう一度会えるなんて思ってもいなかった。
そう言おうとした…のだが私の声は届かなかった。
何故か口を自由に動かす事ができない。
「君はまだここに来ちゃいけないみたいだ。」
そう呟き苦笑いをする君。
君は少しずつ歩を進め、私から離れていく。
まって!行かないで…置いていかないで!
そんな願いも虚しく空へと消える。
ここはどこなんだろう…?意識だけがある状態。
勝手に時が進んでいき、自由に動くことも許されない。
まるでシナリオ通りに進んでいるかのような…
(…夢?)
わたしは今夢を見ている…?
せっかくまた会えたのに。最後にお別れぐらい…
せめて私の声が届きさえすれば…!
「待って…!」
この無機質な世界に私のか細い声が響く。
君がもう一度私の方へ振り向いた。あの時と同じ顔。
目は潤んでおり、心做しか悲しそうな顔をしている
もう…朝起きたら絶対枕濡れてんじゃんか
最悪~、洗濯するの大変なのに!
そう強がってしまう私もあの時と全然変わってない。
目が覚めるまでに、泣きやんでるといいな…笑
…話したい事は沢山ある、でも一つだけ。
お願い神様、最後にこれだけ伝えさせてください。
「世界でいちばん、愛しています。」
目から溢れだす涙を拭い、そんな言葉を伝える。
君は何も言わない、動こうとすらしない。
ただまっすぐな笑顔で私を見つめ、
この夢が覚めるのを待っていたのだった─
【冷めた珈琲】(お題:月に願いを)
1つだけ何かが叶うならば皆なら何を願う?
昔読んだ本にもそんな導入があったような気がする。
確かその本の主人公は
「友達が欲しい」って願ったんだっけ。
「願い事、ねぇ…」
さっき淹れたばかりのコーヒーを手に取り口に含む。
知人から凄く美味しいから飲んでみなと
おすすめされたコーヒーなのだが…
「…相変わらずコーヒーは飲めないや」
私には何故この苦さが美味しいのかわからない。
ミルクとシュガーを足し再度口に含む。
「ん、やっぱり甘いのが1番。」
…ねぇ、前みたいに
『こんなのも飲めないの?』って煽ってよ。
『お子ちゃまだね』って笑ってよ。
怒った私を見て『ごめんごめん!笑』って謝ってよ
「なーんて、叶うわけないのにね。」
とっくに冷めてしまったコーヒーと
私達の関係はどこか似ているような気がした ─
「雨嫌いなんだよね。髪の毛うねるしー笑」
そんな事を言う君の横で氷菓を口に運ぶ僕。
「早く夏が来て欲しいなぁ…」
「あ!そうだ。再来週の花火大会、一緒に行かない?」
思い出したかのように彼女は目をぱあっと輝かせる。
「花火大会…?あぁ、隣県の?」
「そう!あそこの花火綺麗なんだってぇー!」
「そうなんだ、行ったことないな。」
携帯のカレンダーアプリを開き予定を確認する。
「特に予定もないし僕は大丈夫だよ。」
「そ!なら良かった!寝坊すんなよー?」
「こっちのセリフなんだけど…」
この日は一日中雨が降り止まなかった。
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「ゴホッゴホッ…」
「大丈夫?…じゃないよね」
「まあ…でも薬飲んで寝たからだいぶマシになったよ」
「そっか、なら良かった。」
「その…ごめんね?花火大会…私のせいで行けなくて。」
「大丈夫だよ。風邪ひいちゃったのは仕方ない事だし。」
雨は降り止まない。少し沈黙が流れる。
外をぼうっと見つめている君と窓越しに目が合った。
目を逸らし俯いた彼女に
なんと声をかければいいかが分からなかった。
雨がやんできたのだろうか。さっきまで
五月蝿く感じていた雑音が静まった気がする。
その瞬間ふと目に入ったのは七色の光。
「ね、みて」
「…ん?」
「ほら、綺麗だよ」
「…!」
「ほんとだ。すごく綺麗。」
雨上がり。君が綺麗だと言った虹と
いつもの変わらない街の景色。
「雨、僕は好きかも」
「ふふ、奇遇だね。私も!」
そういって笑い合える時間が何よりも好き。