眠れない、眠れない、眠れない
身体を何度も転がす
疲れて、やがて目を開けたとき
窓の外には明るく輝く月が浮かんでいた
そのうち眠気がこみ上げてきて、 ゆっくり目を閉じる
瞼の裏にも、その光は残っていた
「愛があればなんでもできる」
電車のドア横にあるポスター。本屋大賞第一位。あのキャッチコピーは本の内容を一言で表現しているんだろう。
愛があればなんでもできる?
そんな、エナジードリンクみたいなもん、愛って
電車を降りても、心の中でケチをつける。ハイヒールが重くて、もう歩きたくない。鞄が肩に食い込む。今すぐ倒れ込みたい。でも晩御飯は買いに行かないと。
食材の重みを腕に感じながら、玄関を開ける。にゃーんと声が聞こえる。
疲労感を放っておいて、何かしてあげなければと思う。愛は痛みを感じなくなる麻酔かもしれない。
だからなんでも出来るのだ。
後悔という2文字が怖い
後悔をしないように生きたい、はある種の強迫観念のように自分の中で湧き上がってくる
今を後悔しないように、歳をとった時後悔しないように、やっておけばと後悔しないように
拳銃が頭にずっと当たっている気さえする
後悔という2文字が怖い
ロマンス詐欺に遭い、人間不信になった。
詐欺にあっただなんて、きっと親はがっかりする。唯一相談できるのが、マリアだった。マリアはあだ名で、ちょっとしたコミュニティのリーダーだった。
マリアの言葉や占いは人を動かし、魅了した。彼女はカリスマというやつなんだろう。
マリアの占い通りに名前を変え、彼女の勧める化粧品や日用品、飲料まで何もかも買った。自分に自信が湧いてくるようだった。マリアは私を否定しない。
見捨てられたら私は、自分がどうなってしまうかわからないから。何も疑わなかった。
今私の立っている場所が廃屋の屋上でも。
でも。でも、マリア、
私はもう一度マリアを見た。
「なぜ私は飛ぶの?」
「ここで試されてるのは私の力を信じるか、信じないかなのよ」
その声色は私を責めていない。頭を撫でる母親のような柔らかさ。
「私の力があるからあなたは怪我もせず着地できる」
私は風に身を任せた。
リフレッシュするために旅行に行った。お昼頃、ホテルにチェックインし、窓から街を眺める。別の街の景色を見て肩の荷が降りた気がした。
観光していると行列ができているラーメン屋を見つけた。遠出してるんだし、どうせなら美味いものが食べたい。お昼を食べ損ねたからちょうどいい。
並び始めた時よりお店の扉が近づいているが、もう暇を潰すのにも飽きてきた。なぜあの時、「どうせなら美味いものが食べたい」と行列に加わってしまったのか。
行列に加わって40分。この時間を「失われた時間」と思ってしまう俺は、行列に並ぶのには向いていない。