『逆光』
記憶の片隅に、顔も覚えていない誰かがいる。
その人の声も表情も、何もかも思い出せない。
でも、いたという事だけが記憶の中にいる。
小さい頃の話でもないのに、
ほとんどが記憶の中から抜けている。
ただ、映画の一コマだけのような映像がある。
雪が積もっていて、だけど夕日が見えて、
あなたの後ろを歩いてる私に、あなたは声をかける。
表情も声も思い出せない。
あなたは私の光で太陽で、
だから、直視することが出来なかった。
私を見てるあなたの背後にある夕日が余計に、
あなたの輪郭をぼやかしてしまっていたと思った。
『こんな夢を見た』
とってもうれしい夢を見たんだ!
本当に嬉しそうな顔をして、そう言ったあなたは、
その後に、好きな人が夢に出てきた!と言った。
こんなに嬉しそうに、私に話すってことは、
その人は自分ではないのだと心が傷んだ。
嬉しそうな顔も、満面の笑みも、落ち込んでる姿も、
全部私だけが知っていればいいのに。
私が誰よりも愛するから、
あなたのその笑顔を私が作りたい。
『タイムマシーン』
ずっと小さい頃の私に会いに行きたかった。
今の自分が出来た足跡を見てみたかった。
未来の私に会いに行きたかった。
ちゃんと生きていることが出来ているのか、
確認したかった。
もしもタイムマシーンが出来たら、
確実に悪用されるだろうね。
そして世界は滅びるんだ。
もしそんな未来があるのならば。
世界が滅ぶ前に、
宇宙の全貌をこの目で見るんだ。
『特別な夜』
年に一度の大切な日だから、
あなたの写真と乾杯をした。
お酒のせいで目から水が零れた。
早くあなたと乾杯をしたいよ。
この日は毎年、
いちばん最後に乾杯したのはいつだったかなって
カレンダーを見返すの。
それで、あなたと過ごした日を思い返すの。
今日はいつもよりも少しだけ早く寝るから、
夢の中で長く会えますように。
私は今年も、星を眺めながら願った。
『海の底』
海の底に沈んでいるような日々だった。
光は届かなくて、空気も入ってこない。
真っ暗で苦しくて、本当に何もなくて、
自分がどこにいるのかさえも検討がつかない。
自分の中の全ての空気が、
ボコボコと音を立てて泡になっていく。
力が抜けて、沈んでいくのを待つしかない日々。
それを懐かしいと思えている今は、
海の底ではないどこかにいるってことだと思う。