11/6/2024, 2:06:29 PM
かのひとの頬を濡らす涙が柔らかい雨のようだった。それが喜びからくるものだということに一拍遅れて気がついた。ゆっくりと胸に暖かいものが広がっていく。これが幸福と呼ばれるものなのか。
「柔らかい雨」24.11.6
11/5/2024, 2:10:43 PM
その助言は自分にとってまさに暗闇に差し込んだ一筋の光だった。
「ちょっと行ってくる!」
「え、行くってどこに?」
返事もしないまま脳裏に描いた風景に向かって駆け出した。絶対にかのひとを救いたかった。かのひとが自分を救ってくれたように、もう一度心からの笑顔が見たかった。
「一筋の光」24.11.5
11/4/2024, 1:18:00 PM
深まる秋の夕暮れ、かのひとの力なく肩を落として歩く姿は哀愁を誘うものだった。そんなものを見ていたくなくて自分は駆け出した。あの背中に手を遣って顔を上げさせていつもどおり軽口を叩いて、そうすれば少しだけでも元気になってくれるはずだ。足音が重なって伸びる影が並んだ。
「哀愁を誘う」24.11.4
11/3/2024, 10:56:26 AM
背中を軽く押されて、たたらを踏みながらそこに立つ。鏡の中の自分は予想以上に不安そうな顔をしていた。
「……似合ってるか?」
「似合ってる。てか、お前以上にその服が似合うヤツなんていないよ」
「よくそんなこと言えるな」
「だぁって、ホントのことだもん」
青い衣の裾を翻して彼へと向き直る。彼は自分がこの衣を着てから随分と機嫌がよさそうだった。
「鏡の中の自分」24.11.3
11/2/2024, 10:14:39 AM
眠りにつく前にかのひとが額にくちづけをくれた。
「よく眠れますように」
最近眠りが浅いと愚痴をこぼした自分へのおまじないだと、かのひとは一緒にブランケットを被りながら小さく笑った。その笑顔がなにより心安らぐものだということをかのひとは知らないだろう。
「眠りにつく前に」24.11.2