【海の底】
海の底に、沈んでいく。
深く、深く。
もう、意識も持たなそうだ。
懐かしい思い出が流れるように出てくる。
所謂、走馬灯、というやつだろう。
出てくる思い出には、いつもあなたがいる。
最後に見たのがあなたでよかった。
必死に僕を助けようとしてくれた、あなたで。
僕の勝手な行動だったのに、必死で止めようとしてくれて。
僕は嬉しかったよ。
あなたにあえてよかった。
でも、最後くらい笑顔が見たかったな。
あなたの笑顔が大好きだったから。
涙でぐちゃぐちゃな顔も、悪くはなかったけど。
どんな顔でも好きだから。
苦しくなってきた。
もう、酸素が無いらしい。
段々と、ぼんやり靄がかかっていく意識。
最後の力を振り絞って呟く。
「ありがとう」
自分の口から出た泡が綺麗だ、そう思った。
浮かんでいく泡とは反対に海の底に向かって体が沈んでいく。
もう、思い残すことは何もない。
ほとんど何も見えなくなっている目をそっと閉じ、僕は意識を手離した。
るあ
【君に会いたくて】
毎日、毎日、何をしても上手くいかない。
あれはいつだっただろうか。
君が、居なくなってしまった、あの日から。
それは、突然のことだった。
「ごめんなさい、大好き、でした。」
なぜ、そんなことを言うのか。
「ッ、待って!」
あの時君は、目に涙を浮かべていた。
どうして、そこまで君が苦しむのか。
今でも考えてしまう。
いつまでたっても戻ってこない君に会いたくて、会いたくて、仕方ないのに。
何がいけなかったのか。
愛は限りなく伝えているつもりだった。
君に会いたくて。
君の事しか考えられない。
会いたいよ。
るあ
【閉ざされた日記】
俺が日記をつけ始めたのはいつ頃だっただろうか。
ただ思ったことを書いて、書いて、書いて。
何を書いたのかも覚えていない。
今日書いたことは、好きな人について。
大好きで、大好きで、仕方ないのに。
絶対に叶わない恋をしてしまった。
辛い。吐き出してしまいたい。
でも、そんなことをすれば、あいつにも迷惑がかかってしまう。
そんな思いを。
何も言わない、聞き上手の紙に吐露した。
この日記は俺の心に閉じ込めて。
閉ざされた日記を見られることの無いように。
るあ
【木枯らし】
「やっと、逢えた」
あなたがそう言った瞬間、ビュッと木枯らしが吹き抜けた。
この瞬間を何年待ったことか。
あなたに逢える日が来るのをどれだけ待ち望んでいたことか。
あの日、"待ってて、"と言われた時から。
ずっと待ってた。
ずっと。それはもう、ずっと。
何か言おうと口を開く。
「遅いです、どれだけ待ったと思ってるんですか」
パッと口をついて出た言葉は思っていたこととは違う、刺のある言葉だった。
違う。こんなことが言いたい訳じゃない。
静かな空間が広がる。
何か、何でも良いから言ってほしい。
木枯らしがまた、吹き抜けた。
今となっては僕もビュッと、去ってしまいたい。
「そんなとこも、可愛い、」
あなたは優しいですね。
だから、ここまで待てたのかもしれない。
「大好き、愛してる」
あぁ。懐かしい。この会話。
戻ってきたのだな。
こんな日くらい、素直になっても良いかも、なんてくだらないことを考える。
「僕も、大好き、です」
るあ
【美しい】
僕にとって何の色味も無かったこの世界を鮮やかに彩ってくれたのは、間違いなく君だ。
この世界がこんなにも美しいと気付かせてくれたのも、まだ生きていたいと、思わせてくれたのも。
君と出会って僕は間違いなく変わった。
君の明るさに触れて、戻れなくなってしまった。
何があっても君からは離れられないだろう。
そうなってしまったのは君のせいだ。
世間一般では"依存"とも呼ばれるこの感情は、僕にとって無くてはならないものだ。
君も僕に依存してくれたら良いのに。
大好きだよ、この世界で一番。
この美しい世界で、美しい君と共に。
るあ