メンタリストダイ子

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3/13/2025, 3:01:02 AM

雪で覆われた山道を一人の老人が杖を頼りに歩いている。

⸺ここまでだろうか。

老人は独りごち、旅の終わりを予感した。
壊れかけの杖を崖下へ放り投げようと萎れた腕を振り上げた時、その姿を見た行きずりの旅人が、老人の空っぽの背を見つめて言った。

⸺老人よ。諦めるとは全てを捨て去る事ではなく、朽ち果てた荷物を抱えたまま、旅路を進める狂熱の事である。

それを聞いた老人は、自身の荷物の少なさを嘆き、手放しかけた杖を握りしめ、張り裂けんばかりの大風呂敷を曳いて歩く旅人に尋ねた。

⸺尊公は一体、何処まで行くつもりか。

旅人は答えた。

⸺無論、果てまでである。

直後、旅人は大荷物に軸を奪われ、崖底へと滑落した。

蒙昧な幸福を望むか、崇高な不幸を望むか。
雪道に刻まれた轍に、薄汚れた緑が覗いた。

3/11/2025, 11:06:59 AM

早朝、海洋に湛えられた光点は星々の安らぎであり、この世の無常をも意味する。
これ程までに健気な繋がりが他に存在するだろうか?
物憂げな星々はやがて水面の蒸発と共に天に昇り、そしてまた海洋を漂うのだ。

人間はどうだ? 同じ目線、同じ土、同じ身体⸺。
この平行線が一体何を生んだ?
目の前に在るもので、人類の休息地たるものが本当に存在するだろうか?

畢竟、現世での安息地とは、凡そ縦の軸に存在する。
そして皮肉にも、我々にとっての天地とは、どちらも無を意味する。

3/11/2025, 2:52:52 AM

⸺俺に怖いものなどないよ。

昔そう言った友人が居たが、これは矛盾している。

未だ空気に依存する事でしか生活の出来ぬ人間の有様こそが、圧倒的な主従関係と根源的な恐怖を体現しているのだ。

願いが一つ叶うならば、私はこの隷属から脱したい。

しかし、それもまた、一つの矛盾を生むことになるのだが。