メンタリストダイ子

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雪で覆われた山道を一人の老人が杖を頼りに歩いている。

⸺ここまでだろうか。

老人は独りごち、旅の終わりを予感した。
壊れかけの杖を崖下へ放り投げようと萎れた腕を振り上げた時、その姿を見た行きずりの旅人が、老人の空っぽの背を見つめて言った。

⸺老人よ。諦めるとは全てを捨て去る事ではなく、朽ち果てた荷物を抱えたまま、旅路を進める覚悟の事である。

それを聞いた老人は、自身の荷物の少なさを嘆き、手放しかけた杖を握りしめ、張り裂けんばかりの大風呂敷を曳いて歩く旅人に尋ねた。

⸺尊公は一体、何処まで行くつもりか。

旅人は答えた。

⸺無論、果てまでである。

直後、旅人は大荷物に軸を奪われ、崖底へと滑落した。

蒙昧な幸福を望むか、崇高な不幸を望むか。
雪道に刻まれた轍に、薄汚れた緑が覗いた。

3/13/2025, 3:01:02 AM