君が太陽の下できらめく笑顔を見せる。
君のふわふわの天然パーマも、弾む心みたいに揺れている。
みずみずしい芝生。
春風が頬を撫でていく。
4月の日差しは暖かで、公園は満開の桜色に染まっている。
木漏れ日と遊んでいた君が、それを少し遠くから見ていた僕に駆け寄ってきた。
息を弾ませて話しかけてくる。
「帰ったらコーヒー淹れてよ」
「いいよ。それなら近所のケーキ屋でクッキーを買ってから帰ろう」
喜ぶ君が可愛くて、僕も自然と微笑んでいた。
君といると何もかも幸せだ。
気がつくと、君の髪に桜の花びらが一枚くっついていた。
手を伸ばしてとってやる。
「桜、ついてた」
「ほんとだ。ありがとう」
嬉しそうに笑う。
そして、太陽みたいに暖かな手で僕の手を引いた。
来年も、その先も、ずっと君の笑顔を見ていたい。
僕らは並んで歩き出した。
初めてタバコを吸ってみた。
全然美味しくなんてなかった。
肺をいっぱいにする煙のせいで咳が止まらなくなって、涙と鼻水が勝手に出てきた。
すぐに灰皿にタバコを押し付けて、火を消した。
顔をぐしゃぐしゃにしたまま、部屋の隅で小さくなって、しばらくそうしていら、お風呂に入りたくなった。
タバコの匂いが残るリビングから逃げるように、熱いシャワーを浴びた。
いつものタバコが箱に1本だけ残っていたから、彼の痕跡を消したくて吸ってみた。
余計に思い出してしまった自分は馬鹿だと思う。
彼の好みだから伸ばしていた髪も、今はただ水を吸って重いだけだった。
もう何も考えたくなくて、灯りを消してベッドに入る。
彼も自分も面倒くさがりで、取り込んだ洗濯物をそのままベッドの上に放っていた。
自分のも彼のも一緒くたに、たくさんの布がそこら中に散らばっている。
手探りでその一つを引き寄せた。
それが何か、見えなくてもわかった。
彼が置いていった からし色のセーター。
洗っても洗ってもタバコの匂いがとれなくて、結局二人とも諦めた。
セーターに顔をうずめた。
ちくちくした生地が心地よかった。
まだ、タバコの匂いがする。彼の匂いが。
落ちていく。彼女の瞳から、ぽたぽた。きらきら。
僕はその頬に手を伸ばした。
「泣かないでよ」
触れて、呼びかけたのに、こっちを見もしない。
「ねえ」
拗ねてるのかな。君が泣くまで気づけなかったから。
「ごめんね」
そう言って、僕より小さな彼女を抱きしめた。
震える肩も、漏れる嗚咽も、僕の心を締め付ける。
どうしたら泣き止んでくれるだろうか。
「そうだ。君が行きたがってた、あのカフェに行こうよ。一緒にパンケーキを食べよう」
すると、彼女が唐突に顔を上げた。よかった。
あーあ、目が真っ赤になってる。
僕は笑顔で彼女を見つめ、その口が開くのを待った。
「……嘘つき」
まだ涙を溜めた瞳が僕を睨む。
……いや、僕じゃなくて、僕の後ろを睨んでいる。
「嘘つき、嘘つき。ずっと一緒にいるって約束したじゃない」
嫌な予感がして僕は振り向いた。
そこには、花に囲まれて棺に横たわる、僕がいた。
広くて白い部屋に、漂う線香の香り。
瞬間、記憶が濁流のように押し寄せる。
ああ、どうして忘れていたんだろう。
僕は昨日、死んだんだった。
彼女の泣き声が聞こえる。
なぜか今まで気づかなかったけれど、見下ろした僕の手の平は透けていた。
透けた腕で彼女をもう一度抱きしめる。
「ごめんね」
落ちていく。彼女の瞳から、もう僕が拭えない涙が。