一夜の夢

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11/25/2023, 1:52:02 PM

君が太陽の下できらめく笑顔を見せる。
君のふわふわの天然パーマも、弾む心みたいに揺れている。

みずみずしい芝生。
春風が頬を撫でていく。
4月の日差しは暖かで、公園は満開の桜色に染まっている。

木漏れ日と遊んでいた君が、それを少し遠くから見ていた僕に駆け寄ってきた。
息を弾ませて話しかけてくる。

「帰ったらコーヒー淹れてよ」
「いいよ。それなら近所のケーキ屋でクッキーを買ってから帰ろう」

喜ぶ君が可愛くて、僕も自然と微笑んでいた。
君といると何もかも幸せだ。

気がつくと、君の髪に桜の花びらが一枚くっついていた。
手を伸ばしてとってやる。

「桜、ついてた」
「ほんとだ。ありがとう」

嬉しそうに笑う。
そして、太陽みたいに暖かな手で僕の手を引いた。

来年も、その先も、ずっと君の笑顔を見ていたい。
僕らは並んで歩き出した。

11/24/2023, 4:06:50 PM

初めてタバコを吸ってみた。
全然美味しくなんてなかった。
肺をいっぱいにする煙のせいで咳が止まらなくなって、涙と鼻水が勝手に出てきた。
すぐに灰皿にタバコを押し付けて、火を消した。

顔をぐしゃぐしゃにしたまま、部屋の隅で小さくなって、しばらくそうしていら、お風呂に入りたくなった。
タバコの匂いが残るリビングから逃げるように、熱いシャワーを浴びた。

いつものタバコが箱に1本だけ残っていたから、彼の痕跡を消したくて吸ってみた。
余計に思い出してしまった自分は馬鹿だと思う。
彼の好みだから伸ばしていた髪も、今はただ水を吸って重いだけだった。

もう何も考えたくなくて、灯りを消してベッドに入る。
彼も自分も面倒くさがりで、取り込んだ洗濯物をそのままベッドの上に放っていた。
自分のも彼のも一緒くたに、たくさんの布がそこら中に散らばっている。

手探りでその一つを引き寄せた。
それが何か、見えなくてもわかった。
彼が置いていった からし色のセーター。
洗っても洗ってもタバコの匂いがとれなくて、結局二人とも諦めた。

セーターに顔をうずめた。
ちくちくした生地が心地よかった。

まだ、タバコの匂いがする。彼の匂いが。

11/23/2023, 1:57:21 PM

落ちていく。彼女の瞳から、ぽたぽた。きらきら。
僕はその頬に手を伸ばした。

「泣かないでよ」

触れて、呼びかけたのに、こっちを見もしない。

「ねえ」

拗ねてるのかな。君が泣くまで気づけなかったから。

「ごめんね」

そう言って、僕より小さな彼女を抱きしめた。
震える肩も、漏れる嗚咽も、僕の心を締め付ける。
どうしたら泣き止んでくれるだろうか。

「そうだ。君が行きたがってた、あのカフェに行こうよ。一緒にパンケーキを食べよう」

すると、彼女が唐突に顔を上げた。よかった。
あーあ、目が真っ赤になってる。
僕は笑顔で彼女を見つめ、その口が開くのを待った。

「……嘘つき」

まだ涙を溜めた瞳が僕を睨む。
……いや、僕じゃなくて、僕の後ろを睨んでいる。

「嘘つき、嘘つき。ずっと一緒にいるって約束したじゃない」

嫌な予感がして僕は振り向いた。
そこには、花に囲まれて棺に横たわる、僕がいた。
広くて白い部屋に、漂う線香の香り。

瞬間、記憶が濁流のように押し寄せる。
ああ、どうして忘れていたんだろう。

僕は昨日、死んだんだった。


彼女の泣き声が聞こえる。
なぜか今まで気づかなかったけれど、見下ろした僕の手の平は透けていた。
透けた腕で彼女をもう一度抱きしめる。

「ごめんね」

落ちていく。彼女の瞳から、もう僕が拭えない涙が。