「それでいい」
今年も、この季節がやってきた。
履修登録である。
すごく慣れたような言い草だが、全然まだ2年目だ。
明日は友達と大学で先生に相談しながら一緒に決めることになっているのでそれまでにはおおかた考えておかなければならない。
私は大量にある資料たちやパソコンを広げ、にらめっこを続けている。
ように見えるだろうが、実際は少し違う。
私が履修登録する上で考えておかないといけないのは、この授業面白いかな、だけではない。
誰が一緒になりそうか
流れでお昼ご飯を食べることになっても大丈夫か
帰りのバスが一緒になっても大丈夫か
2年目のいいところは、1年目の反省を生かせるところにあるなとしみじみ思う。
1年目で所属するグループを間違って少し気まずい人々がいるため、絶妙にずらしたいのだ。
自分で言うのもなんだが、別に嫌われているわけではない。
会話できないほど気まずいわけではない。
だが、間が持つか絶妙なラインなのだ。
そういうところも込みで考えていかなければ。
我ながらびっくりするほどのうっかりさんだという自覚があるので、先生に必修の取り漏れがないかを確認してもらえるのはありがたい。
悩んでるものがあれば相談してねとも言われている。
だが、これは授業の内容とかではなく私の心持ちの話なので、相談したとてしょうがない。
なんなら友達と行くため、余計そんなことは言えない。
実はこの友達も、距離感が難しい。
多分もう別の子に声をかけて断られており、自分はその代打なのだ。
本命ではないことが見え見えでいやらしい。
いろいろ思うけど、結局は自分がどう思うかだ。
それに尽きる。
想定はいくらでもできるが、実現するのはひとつだけ。
考えすぎてしまうとこも、
絶妙なラインの人間をあちこちに作ってしまうとこも、
人に頼れないとこも、
全部ひっくるめて私なのだから。
どうせ四方八方に気を回してもから回るだけなので
自分の健康だけ考えて生きていこーっと。
うん、それでいい。
それがいい。
「幸せに」
がらんとした部屋で小さめの段ボールを開ける。
中には可愛らしいぬいぐるみやキーホルダー、マグカップなどが窮屈そうに詰まっている。
ひとつひとつの品に彼との思い出が詰まっていて、記憶が脳みそをゆっくりと巡る。
巡っていく速さや深さから、彼との日々が濃くて尊いものだったと思い知らされる。
時間はあまり経っていないのにこの頃の自分がとても若く見えて、眩しかった。
まだ見慣れないひとりきりの部屋にきらきらした思い出は似合っておらず、再び段ボールに蓋をする。
彼との日常が消えないように。
いつだって思い出せるように。
かすかな残り香さえ失いたくなかった。
食器や化粧品に日用品…などなどもっと他に荷ほどきしないといけないものは山ほどあるのに、私は未だに過去に縋り続けている。
未来しか見ていない彼とは正反対に、私だけがまだ子どものままだった。
明日から4月で、私も彼も地元にいない。
もう、会うことはないんだなと改めて思う。
確かに一緒に過ごしたはずのあの日々は、あっという間に新生活で塗り替えられて消えてしまうのだろう。
彼が今何をしているのか、
誰といるのか、何を想っているのか。
夢を追いかける彼を支えることのできなかった私には、
そんなこと知る権利がない。
ただ“元カノ”ってだけで一丁前に偉そうだけど、
そんなことは分かっているけど、
せめて最後に、あなたの幸せくらいは願わせてほしい。
わがままな願いを、ダンボールと共にクローゼットの奥に押し込んだ。
壁にかかった明日着るスーツを、しばらくその場で眺めていた。
「ハッピーエンド」
大学生にもなるともうどんな話題から始めようとも最終的には恋バナにたどり着く。
毎回私にも話のターンが回ってくるが、言えるようなことが何もないためいつも当たり障りのないことを言っているのだが。
うーんでも可愛いんだからいつかできるよ!と言う言葉が心からの言葉ではないことは顔を見れば分かる。
どこか下に見られているのをうっすらと感じるのだ。
恋愛が全てではない、と思うのは負け惜しみだろうか。
みんなが恋愛に飛び付く必要はないんじゃないかな。
何をもって“幸せ”とするかは人それぞれなのだよ。
正直にいうと、
大好きな人と一緒に
大好きな映画や小説を楽しみながら
大好きなお菓子を食べることが私の幸せだ。
その暮らしの延長線上で死にたい。
それが私の、私だけのハッピーエンドだ。
そう考えながら今日も今日とて。
「見つめられると」
見つめすぎて、あなたの瞳に吸い込まれそうになる
なんてことが実際に起こると思わなかったと君は言う。
俺の目がとても綺麗だと。
言われ慣れない褒め言葉に、ありがとうと普通すぎる返答をするほかなかった。
やめてくれ。見ないで。
吸い込まれようとしてるでしょそれは。
君を吸い込んでしまうとばれてしまうじゃないか。
気持ちを見透かされそうで怖いんだよ。
見つめられると、調子が狂う。
「あなたに届けたい」
珍しく時間に余裕を持って家を出て、グループLINEに送られてきていた居酒屋へと足を運ぶ。
今日会うのは、数週間前の成人式で再会した中学校時代の同級生だ。
当時は男女で仲が良かったが、今考えると不思議で
仕方ない。
今日も同窓会の日と同様、大して面白くない地元ノリを聞き、愛想笑いを浮かべることになるのだろう。
そんなこと分かりきっているのに、
あなたに会える、たったそれだけで
いつもはつけない香水を振り、メイクを濃くした。
当時と何も変わらない、何も起きないと分かっていながらも淡い期待を抱くことをやめられない。
あなたにだけ、響けばいい。
あなたにだけ。
雑に振られる現在の恋愛事情も、
その返答に隠された想いも、
あなたにだけ届けばいい。