「見つめられると」
見つめすぎて、あなたの瞳に吸い込まれそうになる
なんてことが実際に起こると思わなかったと君は言う。
俺の目がとても綺麗だと。
言われ慣れない褒め言葉に、ありがとうと普通すぎる返答をするほかなかった。
やめてくれ。見ないで。
吸い込まれようとしてるでしょそれは。
君を吸い込んでしまうとばれてしまうじゃないか。
気持ちを見透かされそうで怖いんだよ。
見つめられると、調子が狂う。
「旅路の果てに」
人生、山あり谷あり。
様々な人と出会い、そして別れる。
なんの価値もなさそうな日常を繰り返し、
歳をとっていく。
私がおばあちゃんになったとき、
なにか誇れるものを持っているのだろうか。
棺に何を入れて、
天国に何を持っていくのかな。
旅路の果てに悲しんでくれる人間がひとりでも多く
存在するようにがんばりたいネ。
「あなたに届けたい」
珍しく時間に余裕を持って家を出て、グループLINEに送られてきていた居酒屋へと足を運ぶ。
今日会うのは、数週間前の成人式で再会した中学校時代の同級生だ。
当時は男女で仲が良かったが、今考えると不思議で
仕方ない。
今日も同窓会の日と同様、大して面白くない地元ノリを聞き、愛想笑いを浮かべることになるのだろう。
そんなこと分かりきっているのに、
あなたに会える、たったそれだけで
いつもはつけない香水を振り、メイクを濃くした。
当時と何も変わらない、何も起きないと分かっていながらも淡い期待を抱くことをやめられない。
あなたにだけ、響けばいい。
あなたにだけ。
雑に振られる現在の恋愛事情も、
その返答に隠された想いも、
あなたにだけ届けばいい。
「今年の抱負」
昼食か夕食か、はたまたおやつとしてなのかもはや分からないくらいだらだらとずっと食事をしていた。
もしかしたらまだ朝ごはんかもしれなかった。
部屋の中にはずっとお笑い番組が流れていて、漫才やコントを贅沢にBGMとして扱いながらスマホを見る。
しばらくそうしているとぱっと画面が変わった。電話だ。名前を見て自然に口角を上げる。
テレビの音量を下げながら「もしもし?」と応えると、
「彼氏くん今なにしてんのーん」と陽気な声が聞こえる。
「いやね、昨日会ったとき今年の抱負聞き忘れたなって思ってさ」
思ったより内容しょぼいなという声は心にしまう。
『逆に彼女さんは今年の抱負決めたの?』と聞くと
待ってましたと言わんばかりに自分の抱負を語り出した。しっかり聞いていないが、要は今暇していたということだ。
「で、抱負なに???」
もう一度俺のターンが回ってくる。多分興味は無い。
惰性で聞いているだけなのが声だけで分かる。
『うーん早寝早起きかな』
普通すぎるな一周まわって珍しいなどの茶々が飛ぶ。
「そんなこと言ってー、ほんとは私と来年も幸せに生きることでしょ?」
おっと図星
「揺れるキャンドル」
乱雑に玄関を開け、右肩に乗る荷物をその辺に放る。
そして一直線に冷蔵庫へ向かい、もう片方の手に持っていた白い箱を中へ入れる。
白い箱はすかすかの冷蔵庫を大きく占領し、我が物顔で居座っていた。
部屋着に着替えたり諸々の準備を済ませ再び冷蔵庫の前に立つ。
先程より少し冷えた箱を机にだし、箱を開ける。
プレートをゆっくり引っ張り、まん丸のケーキを取り
出す。
ひとしきり写真を撮ったら、台所の引き出しからろうそくを1本抜き、ケーキの中央付近に差す。
電気を消し、ろうそくに火をつける。
この歳になると、お祝いの連絡も何人かからぽろぽろと送られてくるだけになり盛大に祝われることも無くなる。
だがしかし、私はそれでも誕生日はしっかり楽しむことにしている。
明日はクリスマスだが、そんなことは自分の誕生日に比べたらどうでもいいことだ。
ふうっと息をふきかけ、視界が真っ暗になる。
手探りでスイッチを探し、電気がつく。
再び現れたケーキは、より一層輝いて見えた。