「揺れるキャンドル」
乱雑に玄関を開け、右肩に乗る荷物をその辺に放る。
そして一直線に冷蔵庫へ向かい、もう片方の手に持っていた白い箱を中へ入れる。
白い箱はすかすかの冷蔵庫を大きく占領し、我が物顔で居座っていた。
部屋着に着替えたり諸々の準備を済ませ再び冷蔵庫の前に立つ。
先程より少し冷えた箱を机にだし、箱を開ける。
プレートをゆっくり引っ張り、まん丸のケーキを取り
出す。
ひとしきり写真を撮ったら、台所の引き出しからろうそくを1本抜き、ケーキの中央付近に差す。
電気を消し、ろうそくに火をつける。
この歳になると、お祝いの連絡も何人かからぽろぽろと送られてくるだけになり盛大に祝われることも無くなる。
だがしかし、私はそれでも誕生日はしっかり楽しむことにしている。
明日はクリスマスだが、そんなことは自分の誕生日に比べたらどうでもいいことだ。
ふうっと息をふきかけ、視界が真っ暗になる。
手探りでスイッチを探し、電気がつく。
再び現れたケーキは、より一層輝いて見えた。
「降り積もる想い」
心に積もる、貴方への愛。
だけど溶けだすことはない。
自らで昇華していくのみなのだ。
悲しいかな、
私の入る隙など存在していないのね。
今日も2人に背を向けて
暗い夜道をひとりで歩く。
「君と紡ぐ物語」
彼の背を目で追いかける。
まだ交わっていない貴方と私。
2人の視線がかち合う日を待ちわびて、私は今日も
過ごしている。
もし貴方と恋人になれたとしたら、
私と貴方はどんな顔でどんな会話をするのだろう。
喧嘩したとき先に謝るのはどっちだろう。
貴方は私のどこを好いて、どこを嫌うのだろう。
そうぼんやりと考えていた。
昨日までは。
2人だけの物語を紡ぎ始める日は
夢のまた夢、か、、?
「時を繋ぐ糸」
ぱらぱらと音を立てて紙をめくる。
紙どうしの擦れる音が心地いい。
私の知らない時代を生きていた人々との交流が叶うところが、本のいいところだと思う。
偉人が繋いでくれた糸を断ち切ることの無いよう、
繋いでいきたい。
いつまでも、いつまでも。
いつか、私も。
そう決意を新たにしながらテーブルに置きっぱなしだったペンと原稿用紙に目をやった。
「君が隠した鍵」
おーい、ねえってば。
開けてよーー。
彼女は俺が鍵を持っていないときに限って玄関にロックをかけていることがあった。
俺が外から叫ぶと彼女はくすくす笑いながら開けにきてくれる。
これは2人の恒例行事になっており、その時間が愛しくてわざと鍵を忘れていくこともあった。
おーい、ねえってば。
開けてよーー。
誰もいない部屋に向かってぽつりと呟く。
俺はいつから彼女の心のドアも開けられなくなったのだろうか。
隠されたんじゃない。俺が、置いてしまったんだ。
ポストを開けると、からんと音を立てて鍵が落ちた。
拾うこともせず、俺は玄関の外で立ち尽くすしか
なかった。