街を見下ろした。ここまで高い場所に来るのは初めてだった。ただ、ここに来れば、愛していた人の面影が、愛してくれていた人の面影が残っている気がした。
貴方が私に触れる度に、痣が増えた。貴方が私を抱きしめる度に、貴方への愛が深く重く貴方にのしかかった。貴方は私無しでは生きていられなくなっていた。だから、だから傍に居たのに。何が足りなかったの？
私がなにかした？酷すぎるよ。勝手に殴って、勝手に愛しておいて、勝手に死なないでよ。
今、私は、街の上に立っている足を、空へと踏み出した。

｢ごめんね｣なんて言ってみたら、貴方が困ったように笑うから。また｢ごめん｣って言っちゃった。知ってる。知ってるのよ、貴方はありがとうって言ってもらいたいんでしょう。だけどね、私はね、ごめんねって言いたいの。許されたいの。貴方が私の頭を撫でる度に、私の手を握る度に、私の名前を呼ぶ度に、私に唇を合わせる度に、罪悪感が募るの。だって私にはもう恋人が居る。

半袖が揺れた。
スカートが揺れた。
髪の毛がふわりと揺れた。
顔がくすぐられて貴方が笑う。
綺麗に笑う。
愛おしかった。
自分の愚かさが怖くて火照った顔を貴方からそらした。
貴方が大好きだった。大好きだったからこそ大嫌いだった。
私の長袖が濡れる。
貴方を思い出して濡れる。
コロコロと笑うあなたはもう居ない。
あの時顔をそらさなければ、私が前に立っていれば、貴方は轢かれなかった。

降り止まない雨がないとかじゃなくて、今この雨が辛いから傘をさして知らないふりをしたいし、明けない夜はないとかじゃなくて、明るいところに行くと落差が凄いからいっその事ずっと夜でいてもらいたいの。
そう考えて自分の中に潜るのは、悪いことですか？

愛があればなんでも出来るなんて嘘だ。
実際愛なんてものは愛し合うためではなく自分を満足させるためにあるんだから。お互いにお互いを愛したところで本当に同じ愛なんてものは存在しない。愛はいつでも独りよがりでただ孤独を深くするためだけにあるのだから。
もし、本当に愛があれば。愛を信じられれば愛のせいで気づつくこともない。