遠い日の記憶
父は大工をしていて普段は寡黙な人だった。 父が帰ると必ず1番に風呂に入り、夕食の時は父の好きな野球を観ながら食べた。マンガが観たいなんて言えなかった。
妹と喧嘩をすると、うるさいと言われ2人で外に出された。
母は優しく、そっと裏から入れてくれた。
父はお酒が好きで、少し酔うと笑ってくれた。普段、笑わないから嬉しくなったのを覚えている。
父は大工だから本当は男の子が欲しかったんだろうな〜っていつも思っていた。
そんな父だったけれど、夏は必ず多摩川の花火大会に連れて行ってくれた。
「くるぞ、くるぞ〜ほ〜らでかいのきた〜
あれはナイアガラの滝っていう花火だ すごいだろ〜
連発花火だ!綺麗だな〜」
と、私と妹に上機嫌で話してくれる。
花火大会が終わると一斉に皆んな帰るため、ぎゅうぎゅうに混雑する。
父は妹をおんぶし、私の手をぎゅと握る。
「絶対に離れるなよ」
と言って痛いくらい握ってた。
父は60歳で亡くなった。癌だった。
私ももうすぐ父が亡くなった歳になる。 夏の花火を見ると父を思い出す。
夏の遠い日の記憶である。
空を見上げて心に浮かんだこと
社会人5年目。暑いビル街を急ぎ足で歩く。 昨日、手配した荷物の中身が違っていると、相手はかなり苛立っていた。
何度も確認した。どこで間違ったのだろう。
電車を乗り継いで2時間。長閑な田園風景。 そこからタクシーで1時間。やっと着いた工場の事務所で工場長を呼んでもらう。
工場長は
「おまえたちはバカにしているのか! こんな図面で何ができる!
この型も違う!
クーラーの部屋でタラタラ仕事してるからダメなんだ!」
僕はひたすら頭を下げる。
1時間怒られて、やっと解放された。
工場を出て、ふーっと息を吐きながら空を見上げる。僕は空高く飛ぶ、白球を思い出す。
学生時代は野球選手に憧れていた。
グラウンドを何周も走り、バットを何百回も振った。 一年中休みなく、朝も夜も白球を追いかけた。
毎日、毎日つらい練習をして甲子園を目指したけれど、願いは叶わなかった。
でも、後悔はしていない。仲間と共に打ち込んだ日々は、生きていくために何が大切かを教えてくれた。
青空が果てしなく続いてる。急に野球の事なんて思い出してどうしたんだろう。1時間のお説教は効いたな笑。
さー会社に帰って報告書を書こう。僕は何があったって負けない。白球が消えたこの空に誓って、、、。
終わりにしよう NO12
夏の日差しは強い。地面は光と影にくっきり分かれている。
今日はお母さんとお買い物。夏休みに友達とプールに行くから水着を渋谷のデパートに買いに行く。
嬉しさでじっとしていられない。
そうだ!影を踏んじゃいけないゲームしよう!
玄関を出て近所のおじさんとすれ違う。〝ぴょ〜ん”おじさんの影を跳んだ。 バス停でバスを待っている間、車の影を〝ぴょ〜ん ぴょ〜ん” バスが来た。バズの中は休憩時間。
バスを降りてからも数人の人の影を〝ぴょ〜ん ぴょ〜ん”
お母さんに
「何しているの早く歩きなさい」と怒られる。 それでも〝ぴょ〜ん ぴょ〜ん”
電車の中は休憩時間。電車の中は涼しいな〜。
「しぶや〜しぶや〜」
降りてびっくり!すごい人、人、人、、、。
影を踏んじゃいけないゲーム、終わりにしよう。
地面は影しかない!
手を取り合って NO11
彼女が何度も突然倒れる。電車の中で、仕事中に、友達の結婚式で、、、。 病院で自己免疫脳炎と診断される。自分の身体の中で作られた抗体が脳を攻撃する。
彼女はとうとう僕がわからなくなった。 幼い子供になり、笑ったと思うと泣き叫ぶ。手がつけられなくなり、薬で眠らされた。
だんだんと呼吸が上手くできなくなり、人工呼吸器に繋がれた。
彼女と僕は今年、結婚するはずだった。 医者は血清交換という治療をすれば良くなるが、後遺症が残ると言われた。彼女の両親は娘の事は忘れてほしいという。
彼女を忘れる事なんてできなかった。 彼女の全てが好きだった。 僕の全てだった。
そして5年が経った。
彼女は僕の横で笑っている。 記憶障害が残りメモを取らないと直ぐに忘れる事が多いけど、目を覚ました時、僕の事はちゃんと覚えてた。
車椅子になったけれど、彼女は辛いリハビリに耐えた。
バージンロードはお父さんに車椅子を押してもらったけど、愛を誓う時は自分の足で立ちたいときかなかった。大丈夫!立てるよ
この日の為に頑張った君を知っている。
さー立ってごらん僕が支えるよ。
手を取り合って、いつまでも、、、。
優越感、劣等感 NO10
僕は高校1年生。
短距離走が得意。100mを12.5秒で走る。
僕が走ると女子は
「すご〜い♡ 佐藤く〜んカッコいい♡」とキラキラした目で僕を見る。
一緒に走ったやつを尻目に、優越感。
国語の授業。先生が
「1ヶ月を単位として契約などをきめるという意味のこの漢字読めるか。佐藤!」
〝月極”
「え〜っと?〝つきごく”です!」
女子が爆笑。
先生
「佐藤は漢字弱いなぁ〜」
同じクラスの生徒に、劣等感。