バズ母

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遠い日の記憶

父は大工をしていて普段は寡黙な人だった。 父が帰ると必ず1番に風呂に入り、夕食の時は父の好きな野球を観ながら食べた。マンガが観たいなんて言えなかった。
妹と喧嘩をすると、うるさいと言われ2人で外に出された。
母は優しく、そっと裏から入れてくれた。
父はお酒が好きで、少し酔うと笑ってくれた。普段、笑わないから嬉しくなったのを覚えている。
父は大工だから本当は男の子が欲しかったんだろうな〜っていつも思っていた。

そんな父だったけれど、夏は必ず多摩川の花火大会に連れて行ってくれた。
「くるぞ、くるぞ〜ほ〜らでかいのきた〜
あれはナイアガラの滝っていう花火だ  すごいだろ〜
連発花火だ!綺麗だな〜」
と、私と妹に上機嫌で話してくれる。
花火大会が終わると一斉に皆んな帰るため、ぎゅうぎゅうに混雑する。
父は妹をおんぶし、私の手をぎゅと握る。
「絶対に離れるなよ」
と言って痛いくらい握ってた。

父は60歳で亡くなった。癌だった。
私ももうすぐ父が亡くなった歳になる。   夏の花火を見ると父を思い出す。
夏の遠い日の記憶である。

7/17/2023, 11:18:07 AM