【手を繋いで】
ベッドに眠る妻の横顔は昔出逢った頃のままに綺麗だった。
思えば毎日寂しい想いをさせていたのだろう。
それでも私の前ではいつだって明るく元気な笑顔を絶さなかった。
私に気負いをさせないために。
そんな私は毎日仕事ばかりで家庭を振り返る事はなかった。
家事も子育ても妻に任せっきりで。
一緒に過ごしたのさえ手で数えるくらいだ。
だけどこんな私の傍にこの歳になるまでずっと寄り添っていてくれた。
それなのに。
あの日の君との約束を私は忘れて君は独り天国へと旅立った。
「本当に私はダメな夫でしかなかったな。」
私はそっともう目を醒ますことのない妻の手をそっと握った。
「年を取っても僕と手を繋いでいて欲しい」
私が君に送った、最初で最後のプロポーズ。
君ははにかみながら目に涙を浮かべていたね。
「近いうち私も君のところへ逝くだろう。その時、もう一度君に言うよ。その時は」
僕とまた手を繋いでくれますか?
【どこ?】12
「おかしい…」
双子と別れてかれこれ長いこと歩いているのに全然目的の場所に辿り着けない!
て言うか、
「どこよ、ここ!?」
何だか雲行き怪しく、私は沢山の花や草木に囲まれていた。
普段なら可愛いと思える色とりどりの花もこうして巨大化されると恐怖を覚える。
?「うふふふっ」
「だ、誰ッ!?」
?「そんなに怯えないで?大丈夫よ、ここはフラワーガーデン」
「フラワーガーデン…?」
?「そう。私(わたくし)はローズ。気高きバラよ」
「薔薇…?」
ローズ「そう。あなたの名前は?」
「私の名前は…」
あれ?どうしたのかしら、自分の名前を言おうとすると頭の中に白いもやがかかって…。
?「「「あのね、あのね!私たちはパンジー!」」」
「!?」
自分の思考に思案していると、足元で元気な声が響いた。
【大好き】
先生が好き
大好き
【叶わぬ夢】
夢を見た。
きっと夢だと思う。
だって私の好きな人が私を抱き締めている。
それはきっと夢でしかない。
現実では有り得ない光景。
私の想いびとはいつだって私に冷めた視線を撫でかける。
私はその度心をきゅっとさせるのだ。
だから夢でもあなたに抱き締められると嬉しさと愛おしさで胸が苦しくなる。
目頭に涙が滲む。
これが現実ならどれだけ願ってももう後悔はないのに。
【花の香りと共に】
思い出すのは、君から溢れくる花の香り。
何処かでまた会えるだろうか?
名前も顔も知らない。
ただ一瞬通り過ぎただけのことでしかないのに。
それでも会いたいと願えば想いが溢れる。
硝子(ガラス)の中に散りばめた色とりどりの華やぐ花達。
そこにゆっくりと熱湯を注いでいく、香りがたちまち鼻腔を擽(くすぐ)った。
そして、花開く。
これで少しは君を感じることが出来るだろうか。
花の香りと共に。