【セーター】
手編みのセーターなんて渡したら、貴方は重いと感じてしまうかしら?
貴方と付き合い始めて初めての冬。
どうして貴方が私を好きになってくれたのか今になってもまだ解らないままだ。
貴方の周りにはいつもたくさんの人が集まってくる。私は対照的にいつも独り小説を読んでいるような女子生徒でしかなかった。
なのに貴方は気付けば私の傍に居て、一人っきりの私をいつも気に掛けてくれた。
…好きにならない訳がなかった。
だけど。
貴方が私を好きになるのは少し可笑しい。
だって容姿端麗、聖人賢者の貴方の側には私なんかよりずっと可愛くて綺麗な女の子達が我先にと群がって止まない。それなのに。
どうして私を選んだの先生?
「それはね、君が誰よりも綺麗だからだよ」
そう聞けば、先生はまるで内緒話をするように誰も居ない放課後の教室。そっと私に囁くのだ。
先生は青が好きだって言ってた。
だから私は空よりも海よりも夜に近い深い毛糸を選んだ。
「気に入ってくれるかな?」
先生にこれを渡した時を思い浮かべる。
きっと先生はあのエセ臭い笑みを浮かべ私に微笑んで言うだろう。
"ありがとう。とっても嬉しいよ"
「…」
何だか、スッゴく。胸の奥がムカついてきた。
だけど。
「好きになっちゃったんだもん。仕方ないよね?」
自分に言い聞かせるように、編みかけのセーターに微笑んだ。
「よし!ラストスパートだ。頑張るぞ!」
そう、自分を励まし編み物を再開した。今夜も徹夜になるだろう。だけど、大好きなあの人の笑顔を想像すると、いつもよりも編むのが楽しかった。
【落ちていく】1
どうしてこんなにも心がワクワクするの?
追いかけてはいけないと理性では解ってる。だけど、私の中から湧き出る好奇心が私を動かしていた。追いかけないなんて有り得ない。だって私はまだまだ知りたいことがたくさんあるんだから!どうしてウサギが2本脚で立ってるの?何であんな畏まった服を着ているの?それに、言葉を話してる!
あなたは堪えられる?こんなにも不思議なことが目の前で繰り広げられてるのに。私は無理。だって、何時だって私を突き動かしているのはまだ知らぬ世界への憧れ。さぁ、ウサギを追って、真っ暗な穴に飛び込むぞ!
【夫婦】
あなたと出逢って今年で何年目かの記念日。
この日だけはいつもより、いつもと違うメイクとお洒落をして私は家を出る。あなたは気づいてくれるだろうか?
君と出逢って今日で何年になるだろう。特に大きな喧嘩もなく毎日をただ、ふたりで過ごして来たね。この日はいつもより早く仕事を終わらせ、会社を出て君との待ち合わせ場所に向かう。君は気づいてくれるだろうか?
待ち合わせの場所に着いた。あなたはいつもよりめかし込んで私を待っている。あなたは知らない。今日こそ私は。
待ち合わせの時刻。君は遠くで僕に手を振った。僕もその通り君に手を振り返す。でも、君は知らない。今日僕は。
「お待たせ。待った?」
「いいや、今来たとこ」
「嘘。鼻真っ赤だよ?」
「えっ!?本当?」
「ふふ。…今日来てくれたんだね?」
「…当たり前だろ。それとも会いたくなかった?」
「…意地悪。会いたくないわけないでしょ」
「ふふ。さっきのお返し」
「もう!」
こんな日がいつまでも続けばよかった。
だけど。
いつまでも続けて良い筈がない。
だって君は。
「…ねぇ。私あなたに言わなきゃいけないことがあるの。だから-」
「駄目だ。まだ言わないで」
あなたはそう言って私を強く抱きしめる。
私は抵抗することなく言葉を続ける。
「…そっか。やっぱり、気づいてたんだね。」
「それは君も、だろ?」
「うん。そうね」
君は頷き僕の背中に腕を伸ばす。
僕は一瞬身体を震わせ、言葉を続けた。
「…本当に、もう諦めなくちゃいけないのか?」
「ええ。貴方がその仕事をしている限り私はあなたの側に居続けることは出来ないわ」
「だったら!」
「駄目よ。」
そう言って、君は僕の唇を塞いだ。
それはほんの数秒。君はすぐに僕から離れてく。まるでこれからの僕らのようで。
「あなたはこれからたくさんの人を救うの。それがあなたの小さい頃からの夢。そうでしょ?いつまでも私と居るべきではないわ」
「どうして今更そんなこと…僕をこんな君に夢中にさせておいて!君無しじゃ僕はもう!」
再度、僕は君を強く抱きしめた。もう離さないと願いを込めて。
「それは私だって同じ!だがら、」
私も彼にしがみつくように抱きしめた。だけどもう決めたのだ。彼は未来ある若者なのだから。いつまでも夫婦の真似事は続けられない。だから-
「早く私を捕まえて?」
「…っ、」
私は犯罪者。
僕は刑事。
罪を犯した悪者を捕まえるのがあなたの仕事。
罪を犯した悪者を断罪するのが僕の仕事。
だから。
だから。
もう少しだけ。
せめて今夜だけは。
あなたと一緒に、
君と一緒に、
あなただけを愛してる。
君だけを愛してる。
さようなら。
さようなら。
-バンッ、バンッ-
end
【どうすればいいの?】
そんなのこっちが聞きたい。私の中に芽生えたこの感情。消えるどころか、日々想いは増していく。たくさんお話をした。私の言うことに馬鹿にも呆れもしないでただ、心に寄り添って。その人以外の他の人たちは面倒臭そうに関わらないように表では良い人面して影ではあることないこと好き勝手言い腐る。偽善者共。終いには皆表だって私を蔑んだ。心を癒すどころか私の心に新たな傷が刻まれただけだった。本当にどう生きていけば正解に辿り着けるの?
【宝物】
生まれてきてくれてありがとう。そう言ってもらえたら、私はもう大丈夫。きっとこの世界で息をして、自由に羽ばたいていける。
キラキラ光る星の瞬き。見返りを求めず無条件に与えられる愛情。その全てが私の宝物。
なんて言える人生ならよかったな!