【柔らかい雨】
見上げれば空は灰色に染まりつつある。暗い雲に覆われた青空は、今の私の心模様と似ていた。どうしようもない出来事。感情。それらが心に雨を降らせる。それはもうどしゃ降りだ。ベンチに座り、あなたが通らないかと期待したけど、きっとあなたは会いたくないんだね。涙が零れそうになる顔を上げた。もうすぐ雨が降ってくる。思い出すのはあなたの優しい声。好きだと思った。真剣な眼差しにどきどきした。目が合うと嬉しくて思わず笑顔がこぼれた。会いたいです。そんな願いは降ってきた雨に欠き消された。
【一筋の光】
毎日が嫌になっていた。生きる気力なんて湧いてこない。何の変化もなく、何もない自分にも嫌気がさす。消えてしまいたい。そう思うのに根性無しで死ぬこともできないから辛い。やらなければいけない課題は溜まりすぎている。今更どう足掻こうと性根の腐ってる自分を変えることは中々難しい。一筋の光なんてそんなものとつい毒づいて誰にもわかってなんてもらえないことは重々承知。だけど、それでも求めてしまう。いつか、いつかと。
【哀愁を誘う】
夕闇を背に公園のブランコが揺れている。何とも言えない気持ちが心を擽る。見慣れてるはずの空の色は夏の青々としたものとは違って暖かくそしてどこか物悲しさを漂わせている。手にはさっき買ったばかりのおしるこの缶、最近ますます寒くなった。缶を開け、おしるこをひと口喉に流し込んだ。温かい汁粉の優しい甘さが冷えた身体を暖めてくれる。温かい飲み物が美味しい季節になりました。
【鏡の中の自分】
鏡に映った自分はいつも、何かを期待してはそれが叶わず落胆している。好きだと思う人に会いに行く。それはプライベートではなく所要で月に何回かある。その人に会えると思うと私の心は浮きだってしょうがない。少しでも変化を感じて欲しくて、不慣れなメイクもその人を想うと今日は楽しく感じた。鏡の中の私も嬉しそう。そんな気持ちを抱え、高鳴る鼓動は緊張も相まって増していくばかり。いよいよ私の名前が呼ばれる。何週間ぶりに会うその人の反応は。期待と不安、緊張とともにノックを一回。扉の向こうのその人は―
結果は期待とは裏腹だった。鏡の向こう、寂しそうな表情の私と見つめ合う。今日もダメだった。こんな気持ちをあと何回繰り返せばあなたは私の気持ちに気づいてくれるのか。それとも気づいているが、気持ちがないから何も言ってくれないのか。寂しい表情は不満気に歪んでく。でも、諦めたくないのだ。今回ばかりは。だから、次はもっと可愛くして、あなたに嫌でも気づかせてやる!そう心に誓って、鏡の中の私と頷き合った。
【眠りにつく前に】
夜も更け、そろそろ寝ようかと布団の中に潜り込んではみるけど、中々眠気は訪れてはくれない。それでも無理やり瞼を閉じ、じっと眠気が来てくれるのを待った。何度目かの寝返り。ダメだ。全然眠れる気がしない。さて、どうしよう?
「…眠れないの?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、」
嘘つき。半分、目が閉じかかってる。
「…今日、何かあった?」
それなのに君は私を気にかけて、閉じそうな目を擦り私に額を寄せてくる。
「…別に、なにもない、」
「嘘。」
「嘘じゃない」
嘘だった。本当は今日仕事で失敗して上司にこっぴどく怒鳴られ、明日また顔を会わせるかと思うと眠るのが自然と拒まれた。元々あまり要領も良くなく、人間関係を築くのは壊滅的だった。
「今日、ずっと元気無かっただろ?」
「そんなこと…」
「自分が嘘つくの下手な自覚は?」
「…あ、る」
「仕事?」
「…うん」
「そっか」
君は頷き、私を優しく抱きしめてくる。君の体温が私の鼓動を速くさせる。安心をくれる。
「ねぇ、」
「ん?」
再びまどろみの中に沈みそうな君。それでも私を抱く腕は離れずにいる。
「私が起きるまでこのままでいてくれる?」
「当たり前だろ」
当たり前なのか。今度こそ完全に夢の中に旅だった君。その無防備な寝顔を見ていたら、なんだか大丈夫な気がしてきた。
「…明日、上司に会ったらもう一度謝ろう」
私はもっと彼の体温を感じたくて自分の腕を絡ませ、瞼を閉じた。