33. セーター
セーターは重い。今着ているのも牛乳パック二本よりは軽いが、一本よりは重いくらいだ。羊は自分の毛の重みで体が凝らないのだろうか。ウールじゃないものもあるが、やっぱりこの温かさには敵わない。それに、冬は4番目に好きな季節ではあるが、この重さも冬って感じがして嫌いじゃない。冬は少し窮屈で不便でないと。
32. 落ちていく
今日が終わってしまう。そう知らせる西日が部屋の中に入り込んでいる。凍える夜を連れてくる癖に優しい顔をしたそれは、出来る事なら捕まえてずっと閉じ込めておきたいものである。野望から伸びた右手は虚しく空を切った。拳は赤く染まっていた。
落日
31. 夫婦
人生の最難関チャレンジ、婚約。簡単に解消できない契約。別に当たるのも大変な契約。だから余程のことがなければ契約を切らずに夫婦で居続ける。月日が流れていけば二人の中で上下関係が生まれ、片方は心の何処かで怯えながら暮らす。相手の醜い内面に日々直面する。互いに窮屈そうに見えて、しかし二人ともこの契約に納得していそうなのが不思議で仕方ない。
自分はどうなるのだろう。一人で生きるのか、誰かと生きるのか。どちらの未来も考えるのが怖い。自立も共生もできない大きな赤子が今日もすくすく育っていく。
30. 宝物
何をしたところで、どんな言葉で答えたところで、完全に応えることなどできない。救えない。できると言えばただの傲慢だ。分かっていた。
「姿や形あるものは必ず終わりを迎える。だからお前は気兼ねなく生きろ。任せたからな、」
だから勘違いしてはならない。前のように軽口叩きながら、飯は美味そうに食って、行きたいところへ行けば良い。分かっているのに。
俺はあの日に固執してしまう。
29. キャンドル
『火災保険入ってなかったな』
万が一を考えては見たものの、ライターへ伸びる手には関係がなかった。生まれたばかりの不規則な輝きがしどろな部屋に乱反射して、みな等しく赤橙色に染められている。一般的なものより柔らかい蝋は既に強烈なアロマを放ち始めていた。木軸が立てる音に耳を傾けているうちに呼吸の律動が大きく広がり、身体だけが深く沈んでいく。閉め切った窓は冷たく乾いた外気の侵入を許さない。しかし立ち上がろうと思っても今更、意識は甘い空中に発とうとしている。1時間だけ。達成する気のない目標を掲げて意識を手放した。