乱雑無章

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29. キャンドル

『火災保険入ってなかったな』
万が一を考えては見たものの、ライターへ伸びる手には関係がなかった。生まれたばかりの不規則な輝きがしどろな部屋に乱反射して、みな等しく赤橙色に染められている。一般的なものより柔らかい蝋は既に強烈なアロマを放ち始めていた。木軸が立てる音に耳を傾けているうちに呼吸の律動が大きく広がり、身体だけが深く沈んでいく。閉め切った窓は冷たく乾いた外気の侵入を許さない。しかし立ち上がろうと思っても今更、意識は甘い空中に発とうとしている。1時間だけ。達成する気のない目標を掲げて意識を手放した。

11/20/2024, 9:22:35 AM