嫌い、ウザい、触るな。
そう言って私を遠ざけた君に私はどうすれば良かったのかな。
幸せだった日々にもう戻れるはずもなく心はどんどん離れていく。
私が別れを切り出した時、無関心で無表情で接してくれるものだと思っていた。
なのに何故そんな顔をするの?
どうして嫌そうな顔をするの?
あれだけ私を突き放しておいて何を望むの?
彼が私の腕を掴もうとした時、私はもう彼に触れられたくなくて初めて「嫌い」と言った。
好きだったはずなのに、こんな事言いたくなかったのに。
君の声に耳を貸さず私は彼から離れた、遠い遠い場所に向かった。
……本当は分かってた、貴方が素直じゃない事。
全て裏返しの言葉だったって事も分かってた、でもその時の私には君を受け止められるだけの器も心も無かったの。
貴方のその言葉の棘が私を引き裂いた、だから思うの。
次に貴方を好いた人が私と同じ目に合わない事、ただそれだけを願う。
逆さまな愛情なんて、伝わりっこないの。
君の髪が揺らいだ、清々しい程に晴れたこの日に君は何を思うのだろう。
いつも隣を歩くのが当たり前になって時に喧嘩もしてその度に仲直りをして、そんな生活が当たり前だった筈なのにもう明日にはその当たり前は消えてしまっている。
何も感じないだろう、数年前の自分ならきっとそう思っていた。
だが結果はどうだ?自分は君の顔を見れないでいるではないか。
今君が何を考えているのかなんて分からない、だからこそ怖い。
君の手の温もりを、自分はまだ感じていたいだなんて。
無言のまま君を見つめる、数年前とは明らかに違う身長差が今はもどかしい。
君は僅かに顔を上げた、晴天の空を見上げた。
君の目から溢れる涙に触れると君は目を細めて無理矢理笑った。
──・・ああ、もうこれが最後か。
無理矢理口角を上げると君は僅かに背伸びをして温もりを求めてきた、その瞬間『友達』という関係が崩れ去った。
こんな日に結ばれるなんて、なんて残酷なのだろう。
こんな事ならもっと早く君を求めれば良かった、君を抱き締めながら強くそう後悔する。
明日には離れ離れだというのに。
『 』
君はそう言って笑った。
そっと手を掴まれる、私を見てにこやかに笑う君につられ笑いしてしまう。
半ば強引に手を引かれる、何かに夢中になっているその視線が愛おしく感じる。
手を繋いで横を歩く、少し緊張した顔をする君が大人っぽく見えた。
強く手を払われる、毎日のように喧嘩して毎日仲違いをした。
私の手から離れた、いつもそこにあった筈なのに全て無くなった。
君が再び私の手を取った日、君が歪んで見えた。
私を見てにこやかに笑う君につられ笑いしてしまう、あの頃と変わらぬ笑顔を君は見せてくれたね。
背丈も声も変わってしまったけれど、君の手の温もりは変わらない。
私から離れていっても、私は変わらぬ愛を君に捧ぐよ。
そして君は私になって、君は私に小さな手を握らせた。
貴方に似た笑顔に、私は再び笑ってしまった。
身体が芯から冷えてくる。マフラーをしていても口元も凍えるような寒さの中、君はそっとコーヒーを差し出してきた。
仕事終わりで辺りはもう暗い、寒いのはお互い様だというのに君は真っ先にこちらにコーヒーを渡してくる。
君の方が寒そうな格好してるのに、そう思いつつその好意に甘えた。口内まで冷えてたせいか少し火傷しそうになり思わず身が震える。
大丈夫?そう笑う君を見て恥ずかしくなってくる。
同じように隣でコーヒーを啜る君の頬はほんのり赤く染まってるように見えた。
あぁ、風邪でも引いたかな。
寒い筈なのにどうしてこんなにも暑さを感じてしまうのか。
君が隣に居るから、なんて自覚したらきっともっと熱に浮かされるんだろう。
どうかこの微熱に気付きませんように。
・・・
上着のポケットに手を突っ込んでずっと鼻を啜ってる彼を見ていたら勝手に手が動いていた。
一瞬驚いた顔をしていたけれどすぐにコーヒーを受け取ってくれた、本当は猫舌だって事も知っていたけれどほんの少しの出来心で渡したらちゃんと飲んでくれて案の定熱くて反応していたね。
そんな姿を見てつい笑ったら君は僅かに眉間に皺を寄せて目を逸らしてしまった、耳まで赤く染まった君から目が離せなくなりそうだった。
……本当は、私が出てくるまで外で待っててくれた事知ってたよ。
あまり多くは語ってくれない君に何かしてあげたくなっちゃう、そんな気持ちを抱く度に私の体温も僅かに上昇してしまう。
これはきっと風邪じゃないんだよね?
……君が、この私の微熱にどうか気付いてくれますように。