鼻につく悪臭
耳に響く小バエの羽音
玄関を埋めるゴミの山
カビの生えた浴室
虫の湧く台所
皺だらけの布団
空き缶の乗ったテーブル
伏せられた家族写真
捨てられたアルバム
混ざる性の象徴
錆び付いた包丁
血が染みた畳
溶け出る体温
欲しかった愛情
消せない全てを過去に流す
染み付いた悪臭を隠す草花
住処を追われた小バエの羽音は消えた
掃除された玄関
住人を欲す意図が汲み取れる看板
もう此処には誰も居ない
父親も自分も
『辛くない?』
「いえ、懐かしいなァって感じただけです」
『そっか』
瞳に映る産まれ育った我が家というものが
あまりにも記憶と違うから
過去が全て他人事のように遠くて
何処か寂しかった
題名:懐かしく思うこと
作者:M氏
出演:🎗(☀️)
【あとがき】
自分を変えたキッカケはどんなに年齢を重ねても消えません
でもそこに“懐かしさ”を覚えられたら
自分は少しだけでも大人になれたんじゃないかと
判断しても良いんじゃないかなと
思ったりしてます
思ってるだけです
※この作品はダークモードにて閲覧してください
『ハジメマシテ』
先ずは“アイサツ”をするのが“レイギ”と聞きました
次にするのは“ジコショウカイ”ですね
ワタシは…そうですね
思ったよりも“ジコショウカイ”と言うのは難しい
ワタシには“ナマエ”がありませんので
様々な“イキモノ”と関わりましたが
どの“イキモノ”も“ジユウ”にワタシを呼ぶんです
“ニンゲン”のアナタも同じようにしてください
アナタと同じ“ニンゲン”と言う“イキモノ”は
ワタシの事を“カミ”と呼ぶ事もありました
“アクマ”とも“テンシ”とも
“トモダチ”とも
アナタがワタシをどう扱い
どう呼ぶのか
気になるばかりです
“カンタン”な“ジコショウカイ”だけじゃ退屈ですよね
もう少し“ワタシ”を詳しくしていきましょうか
ワタシは様々な“イキモノ”と会話をして
“ハジマリ”や“オワリ”を幾度となく見届けるような“イキカタ”をしています
時には“オワリ”にするには惜しい“イキモノ”も居ます
時には“ハジマリ”を得るに相応しくない“イキモノ”も居ます
そんな“イキモノ”と会話を重ねて
どのように“イキル”のか
どのように“シヌ”のか
それを眺めているのがワタシです
アナタにもきっと心当たりがあると思いますよ
ワタシは“イキモノ”なら誰しもが知っている“ソンザイ”なので
“カミノコエ”とか
“ムシノシラセ”とか
“自分を責め立てる声”とか
“こうしなきゃいけないと思った”りとか
“ニンゲン”が“ウン”や“タイミング”、“モウソウ”、“ゲンチョウ”、“ビョウキ”…
そんな“コトバ”で終わらせるような
そんなものにワタシは居ます
退屈でつまらない命を
いや、ワタシの“ジンセイ”とやらを
アナタのような“イキモノ”が“オモシロク”しています
アナタはこの“カイワ”も“ワスレル”でしょう
アナタの“ジンセイ”は短いので
さて、難しい“カイワ”も之で“オワリ”
ワタシはまた違う“イキモノ”と“カイワ”してきます
そうだ
アナタが感じた“ワタシ”の“ナマエ”を教えてください
『ありがとう』
『ワタシの顔を見てくれて』
題名:もう1つの物語
作者:
出演:
※この作品は短編SSが3つあります
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金属音が響く路地裏
少しの呼吸も出来ない緊張感
こんなにも夜は静かなのに心臓がボグボグとうるさい
水音を聴覚が拾う
引き摺るような重い足取りが聞こえてくる
逃げ出せると言う希望を足は拒絶した
ガクガクとした震えは恐怖だ
アイツが来る
頼むから来ないでくれ
水音と金属音が止む
すぐ近くで
口を抑えていた手が強ばる
閉じたい瞼も動かせない
其処に居る
ゆっくりとゆっくりと視線を斜め上へ
描き殴ったような笑顔を乗せた紙
長く伸ばされた緩く跳ねたパサパサの黒髪
金属音の正体はアイツの背中から伸びる
翼のような機関銃
その先に居るのは紛れも無い自分
巨大な手が自分の身体を掴む
ミシミシと骨が軋む
口を抑えていた手が離れて
“たすけて”
それだけが零れた
生ぬるい空気が紙の隙間から自分にかかる
ボロボロの黒い服から咲く枯れた向日葵と
紙の隙間から零れる涙に
生物の身体から出てはいけない歪音
爆ぜた臓器から溢れる血液が
穴という穴から零れた
バケモノはナいた
ビリビリと路地裏に響く咆哮が
泣き叫ぶ子供に近い事を
誰も気付けない
……………………………………………………………
苦しい苦しい苦しい
どんなに走ってもアイツが居る
何処に向かってもアイツが居る
元が誰かも知らない骸骨を背負ったアイツが居る
どんなに逃げても無駄なら諦めてしまおうか
こんなに怖いのに
この苦しみから解放されたくて足を止める
膝を抑えて身体を曲げて
懸命に息を整えた
頬を伝って落ちる汗が床に広がる
こんなに頑張ったんだ
そう思って顔を上げた
やっぱり居る
誰かも知らない骸骨を背負って
縫い付けられた唇の隙間からパラパラと何かを零す
元は女性と思われるアイツ
布で塞がれた視界でどうやって自分を追ってるんだろう
ペタリペタリとアイツが近寄る
数歩進めば触れ合える程の距離に
アイツが居たとしても
疲労のせいで逃げたいとすら思えない
甘い香りが鼻を擽る
懐かしい香りを放つのは彼女の腕の中
動かなかった足が彼女の為に動く
ゆっくりと近付いて
ソッと腕の中を覗いた
あぁ…見せたかったんだ
大切な生命を
彼女の子供だろうか
柔らかな頬に生え揃った黒髪
彼女の髪にツヤは無いが色は似ている
嫌に人間らしい手で自分の頬を撫でられた
導かれるように彼女の顔を見上げる
彼女の口の縫い目から零れ出る錠剤を見て
自ずと口を開けていた
受け入れていた
思考が白く濁る
甘い香り柔らかな頬暖かな体温
ずっと守りたかったもの
彼女を優しく抱き締める
“もう疲れたよ”
彼女も抱き返してくれる
ゆっくりと身体が沈む
広がる温もりと薄れゆく意識が
まるで心地良い眠りに誘われてるようで
安心して
眠くて
大丈夫
少し眠るだけ
…
1人の少女が消えた時
バケモノはナニカを抱え直した
大切そうに腕に包まれているのは
ツギハギだらけのぬいぐるみ
……………………………………………………………
“きみはうごけないの?”
ボロボロの衣服を纏った幼子が問う
動かせたくないと目を塞ぐライオン
動きたいと耳を塞ぐウサギ
動く必要が無いと翼を掴むヤギ
4本ある腕のうち2本で口を塞ぐ彼は答えない
ただ大事そうに残りの2本でぬいぐるみを抱き締めるだけだ
“それがだいじなの?”
コレにしか縋れないとライオンが唸る
コレがとても大切なものとウサギが笑う
コレは利用価値があるものとヤギが鳴く
夜を吸い込んだような綺麗な翼を持つ彼は静かに愛おしそうにぬいぐるみを抱き締めた
“きみはくるしくないの?”
俺様が守るから苦しくないはずだとライオンが鼻を鳴らす
あたしが笑顔にさせるから大丈夫とウサギが自慢げに話す
私が苦しくとも生きさせるとヤギが目を見て頷く
翼を持つ彼は何も言わずに強めにぬいぐるみを抱き締めた
“それでいいの?”
ライオンが吠えた
ウサギが泣いた
ヤギが睨んだ
彼は足を引き摺るように幼子から1歩離れた
幼子はそれ以上なにも問わなかった
少しばかりの迷いを青く綺麗な瞳に宿して
綺麗な翼を苦しげに震わす彼から離れる
ゆっくりと悲しげな足取りで
たすけて
小さな声は2本の腕で途切れた
お題:暗がりの中で
作者:M氏
出演:🎗💜💎
【あとがき】
一時期創作した子を“異形化”させるのにハマっていました
出演してくれた3人はそれぞれ自分の本心に出会って
殺されたり、飲み込まれたり、見捨てられたりしました
本心を見て見ぬふりしたりする事はよくあります
無自覚に本心を隠す事もあります
でも出演してくれた彼らはどっちだったんでしょう
“異形化”した姿が本心なのか
また幼い姿が本心だったのか
M氏には分かりかねます
きっと愛情なんてものは存在しない
皆何処か自分本位で
誰かを愛すって行為に酔ってて
守りたいとか
放っておけないとか
大切にしたいとか
聞こえの良い言葉を連ねてみて
その言葉に反応した人を自分の物として扱うだけだったりする
冷静に考えればパパもそうだったんだと思う
普通の親なら今は亡き母親の名前を子供に付けない
普通の親ならサイズの合わない母親の服を子供に着せない
普通の親なら自分の子供に手を出さない
普通の親なら軟禁なんてしない
でもボクにはパパしか居なかった
学校なんて行きたくなかったし
そのおかげで友達なんて居なかったし
居たとしても多分話は合わなかったと思うし
可哀想な子って色んな人に言われるけど“可哀想”とかよく分からなかったし
1人で夜の街を歩いてると思考が自然と暗くなる
少しばかりの寒さを帯びた風は薄手の服を愛撫するように身体をなぞる
多分寂しいだけなんだ
そう自覚しないように走った
捕まっちゃいけない
“コレ”には捕まっちゃいけない
路地裏に入った方が逃げるのにちょうどいいけどそっちには行かない
だって血の匂いがしちゃうから
血の匂いは痛くて辛い思い出を浮かばせるから
行きたくないが正しいのかも
人の波を縫いながら自分が何を言いたいのかを考えた
逃げたいの?
分かんない
何から逃げてるのかも
誰から逃げてるのかも
もう理解したくない
捕まえて欲しいの?
そうだよ
捕まりたい
でも冷たくて痛くて辛いのは嫌だ
暖かくて心地好い…そんななにかに…
助けて欲しいの?
多分そう
本当はずっと助けて欲しくて
違う
助けなんて分からなくて
違う
何を言いたいんだろう
何をしたかったんだろう
ダメだ
捕まっちゃう
捕まりたくない
自由になりたい
何も考えたくない
誰か捕まえて
誰か
誰か
誰か
肩に痛みが走る
腕を掴まれて、走っていた勢いで自分の身体から外れそうになっただけ
そちらに目をやれば知らない人
『ライアちゃん?』
多分SNSで使ってた名前
雑に反対にしただけの陳腐な名前
“かくれんぼ中♡”なんて一言と自撮りしかあげないアカウントの名前
荒くなった息が途端に落ち着いて、手首から沁みるように広がる温もりに笑顔を浮かべて
「エヘ〜♡みっかっちゃった♡」
明るくいつも通りの声
漠然とした不安感が影に隠れる
攫われないように
連れてかれないように
相手の手に絡みついて抱きつく
暖かい
落ち着く
誰かの匂い
ボクはアナタに捕まりたいだけ
“見つけた”って言って欲しいだけ
だから冷たくて怖いのは近くに来ないで
路地裏の影でソッと眺めるだけでいて
お願い
お題:愛言葉
作者:M氏
出演:🍼
【あとがき】
愛を感じる言葉とはありますか
出演してくれた彼女は“見つけた”と言って貰える事に愛を感じます
“誰かが自分を探してくれる”と言う行為を救いに思っています
M氏はと言いますと“一緒に死のう”と言われた時が一番愛を感じました
“殺してやる”とか“死んでいいよ”よりも愛を感じました
だいぶひねくれてますね
皆さんはどうでしょうか
愛を感じれる言葉はありますか?
お題:友達
【さきがき】
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