【大切なもの】
大切なもの。そんなものはない。
この身一つあれば、生きていける。
自分の力で全部乗り越えていける。
そう、思ってきた。
そんな無敵な自分に、酔っていた。
でも、違った。
そんな僕をいつも、君は受け止めてくれていたんだね。
それなのに、僕は壊してしまった。
今度こそ本当に、独りぼっちだ。
くだらないプライドに振り回され、ズタズタに引き裂いてしまった。
退路は、すでに断たれた。
だから、君に甘えていた自分を、今度こそ乗り越えてみせる。
もう一度、君と友達になるために。
【エイプリルフール】
「☓☓ちゃん、だいっきらい」
私しかいないはずの文芸部部室に、彼女の声だけがこだまする。
「急に何? ああ、エイプリルフールね」
いつも通りのダル絡みだ。慣れてる私はページをめくる手を止めない。
キーンコーンカーンコーン。
12時のチャイムが鳴る。
「正解。嘘でした〜」
チャイムが鳴り止むのを待ってから彼女は答えた。
「はいはい、私も好きですよ」
私もいつも通り、適当に返しておく。
「…え?」
彼女の間抜けな声を聞き、私は手を止めた。
「ん?」
予想外の反応に、思わず顔を上げる。
「もう午後だからネタバラシの時間だよ…?」
視線を逸らしながら、彼女は呟く。
「…あっ」
じわじわと、私も顔が熱くなる。
「えへへ」
「ニヤつくな!」
彼女と話すと、いつも調子が狂う。
素直になれない私は、外の桜へ視線を逃がすのだった。
何気ないふりをしても、私にはお見通しだよ?
「貴様、自爆する気か!?」
「残念だったな。仲間に後を全て託す。これが罪人である私の"ハッピーエンド"だ」
【好きじゃないのに】
「えへへ」
スカートから露わになっている私の腿を、彼女の髪がくすぐる。
彼女は、ベンチで本を読んでいた私の前に現れると、突然横になったのだ。私の腿を枕にして。
「一体なんのつもり?」
訝しむ私を見上げる彼女の瞳は何よりも透き通って見えた。
ああ、どうして私は、好きじゃないのに、いつもこの瞳に吸い込まれてしまうのだろう。
「☓☓ちゃんの目、綺麗だなって」
深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ、と聞いたことがある。
彼女の瞳が、深淵そのものだったようだ。