【別れ】
「また明日ね!」
「うん……また明日」
帰りの別れ道で、いつも通り彼女は挨拶をして去っていく。
明日。
また、明日。
いつも通り。
また、明日。
3年生になり、その"いつも"の終わりが、刻一刻と近づいているのを、感じずにはいられない。
12年続いた彼女との明日が、1年後にはなくなってしまう。
彼女と明日を迎えるのを、こんなにも大事に思っていたなんて。
この前の模試の結果は、比較するのも無惨なくらい、彼女には差をつけられていた。
1年後の彼女には、知らない誰かが隣にいて、いつしか、私のことも、忘れてしまうのだろうか。
私は無意識に、制服の袖を握りしめる。
それだけは。
それだけは、嫌だ。
例え追いつけないのだとしても。
昨日までの自分に、別れを告げるために。
私は初めて、参考書を開いた。
【恋物語】
「ねえ、最近ちょっと避けてる?」
不意にそう言われて、私は息を止める。
「そ……そんなことないよ?」
「本当にそう? 最近、私のことをちゃんと見てくれてない気がするな〜」
なんとか蚊の鳴くような声を絞り出すも、彼女の言うとおり、私は訝しむ彼女の目を直視できない。
先週の帰り、足を滑らせた彼女を抱き止めてから、どうしようもなく、意識してしまう。
受け止めた彼女の重みと、両手に伝わる彼女の温かみ、鼻孔をくすぐる彼女の甘い香り。
そして、逆に私を心配して見上げたときの、彼女の瞳。
彼女とは幼馴染で、お互いの家のお風呂へ一緒に入るくらいには、気のおけない間柄だ。
それでも、あの時ほど近くで彼女を感じたことはなくて。
流れ込んだ彼女の感触は、私の五感を奪うには十分過ぎた。
以来、私の胸の奥は、彼女に支配されてしまったのだ。
【愛さえあれば何でもできる?】
「愛さえあれば何でもできる」
そんなありふれた綺麗事を漫然と信じられるほどの純粋さは、すでに持ち合わせていない。
どれだけ愛があったって、実力、知識、運、才能、その他諸々の壁が、いくらでもそびえ立ち、理想を阻む。
それでも、諦めきれないのだ。
憧れとも呼ぶべきこの愛は、止められない。
だからこそ思うのだ。
愛だけあっても何かができるわけではない。
でも、愛があるからこそ、何度でも始められる。
例え昨日立ち止まったことだとしても、今日また始めようと思う。
それこそ、本当の愛なのだろう
【後悔】
子供の頃に、ちゃんと勉強しておけばよかった。
子供の頃に、ちゃんと運動しておけばよかった。
子供の頃に、ちゃんと人と話しておけばよかった。
子供の頃に、ちゃんと現実に向き合っておけばよかった。
そんな後悔が無数に湧き出しては消えていき、そしてまた湧き出す。
何度も。
何度でも。
でも、そのたびに思う。
あの頃の自分に説教したところで、あの頃の自分はどうせ何も変えないし、何もしない。
良くも悪くも、積み上がった今だからこそ、向き合おうと思えるのだ。
夢が、理想が、はっきりとわかる今だからこそ、向き合おうと思えるのだ。
だから今日も、少しずつ、小さくても少しずつ。
1年前からやっておけばよかったと後悔した昨日を思い出しながら。
やったうちに入らないような少しだとしても。
1年後の自分が、少しはマシだと思えるように、この後悔を、糧として生きるのだ。
子供の頃を、やり直すように。
風に身を任せて生きられれば、どれだけ楽だろうか。
風に乗れなかった私は、必死に走るしかないのだ。