つぶて

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6/11/2023, 1:37:28 PM

 水槽に解き放ったメダカたちはすいすいと泳ぎ出した。多くの仲間たちに出会って楽しそうだ。孤独で過ごすのは辛かったのだろうと、なるべくたくさんのメダカを入れる。折角だから、いろんな飾りも入れて明るい水槽にしよう。
 しばらくすると、メダカたちは水面で口をパクパクし始めた。どこか苦しそうだ。どうやら酸素不足らしい。なるべく植物を入れてあげましょう、とネットに書いてある。藻類を入れると、やがてメダカたちは落ち着いた。緑がないと息苦しいようだ。
 ゆるゆると泳ぐメダカを眺めながら、うちでも花を育てようかな、と思う。


お題: 街

6/11/2023, 6:05:26 AM

 金曜日の夜、僕は上機嫌でスマホをいじっていた。
 SNSを眺めているだけでやりたいことはいくらでも見つかる。いろんな人がいろんな面白いを発信してくれるからだ。イベント、フェス、ライブ、キャンプ、映画。どれもこれも面白そうだから、半ば無意識的にやりたいことリストに追加する。
 気づけばリストは五十件を越えていた。やりたいことばかりの日々。なんて贅沢な話だろう。スマホやSNSがなければこんな生活はありえない。現代に生まれてよかった。明日は何をしよう。迷っちゃうな。
 その時、突然の不具合によりスマホは機能を停止した。やりたいことリストは全て抹消された。僕は焦った。リストの内容は四つくらいしか思い出せなかった。
 とりあえず、覚えてることからやろう。そうして手をだした趣味は生涯にわたって続いた。

6/10/2023, 8:44:41 AM

 けたたましい目覚まし。類をみない不快音。たぶんこの世で一番嫌いな音。五分聞き続けたら病む自信がある。一秒でこの憂鬱さだもん。でもだからって好きな曲に変えるのもムリ。三日で嫌いになるから。一度それで後悔してからはずっとこの音。たまにさ、推しのイケボを目覚ましにしてる人とかいるけど、正気の沙汰じゃないよね。三日後には拳で黙らせてるよきっと。かわいそ。
 にしても眠い。昨日、マンガ読み過ぎたんだっけ。今日ゼッタイ眠いよ。昨日の私ってばホントばか。朝になったら後悔するのに、いつも夜更かししちゃう。人って愚かだよね。人っていうか私か。
 東向きの窓。朝日が入って来るのがいい。ちょっと肌寒いから、しばらく温もりをお裾分けしてもらおう。お日様、ついでにカレンダーの文字を赤くしてくれませんかね。それか、西の空に全力ダッシュとか。カワイイ私からのお願い。どう? ねえねえ。
 上目遣いに太陽を見る。返ってきたのは、大きなくしゃみ。お天道様は今日もつれない。私はふてくされて、リビングに下りる。「おはよー」

6/8/2023, 2:29:00 PM

 ジャラジャラと転がり落ちるパチンコ玉。これが人生ってヤツだ。第一の杭を潜れなかったら終わり。第二のポイントを通った玉にはチャンスがある。それでもスポットに落ちるのはほんの一握りだけ。結局、どいつもこいつもてんで駄目だ。バラバラと掃き溜めに落ちていって終わり。何のチャンスもない。所詮、玉のいく末は、打ち出した瞬間の力加減で決まる。出身地、家庭環境、才能、性格。生まれた時の速度で将来が決まるのだ。
 数字がゼロになった。玉切れ。最後に飛んで行った玉は、大ハズレの道を落ちていく。舌打ち。ダメだ。会社をクビになり平日にパチンコ打ってる俺くらい駄目だ。救いようがない。
 それなのに、コロコロと落ちていく最後の玉を、じっと目で追ってしまうのはどういうわけだろう。


(ここで終わろうと思ったけど追記)

俺は諦めているのか。もう道はないのか。このまま終わってしまっていいのか。本当に、これでいいのか。

「いいわけ、ねえだろうがあ!!」

俺はパチンコ台を抱えると思いきり横倒しにした。
最後の玉は突如として向きを変え、見事ジャックスポットイにイン。

「まだまだこれからだあああ!!」
「お客さまっ! 一体何をっ!」
「っしゃあああ!!」

その後、警察が来ていろいろ怒られた。





6/7/2023, 12:20:25 PM

 世界に靄がかかった時、終わりが近づいていることを知った。白の病室。窓辺に座る君の優しい瞳。その手に触れていれば私は幸せだった。苦しみも恐怖も乗り越えられた。一つ心残りがあるとすれば、君より先に行ってしまうことが申し訳なかった。
 やがて私の世界は光を失い、音を失い、感触までもが遠のいていく。暗い、暗い、海の底へと沈むんでいくように閉じていく。ゆっくりと、世界が閉じていく。
 最期に残ったのは君の微かな体温だった。私と君を繋ぎとめる温かな光。私には解る。君が微笑んでいるのが解る。君が私を愛していて、私が君を愛していることが解る。世界の終わりに君と手を繋いでいることが解る。
 ありがとう、愛しの人。一足先に向こうで待っているよ。君はゆっくりとおいで。私はずっと君のそばにいるから。

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