「これで誰もが大助かり!」
「そうなんですよ! 実はお子さんにもメリットが!」
「かと思いますよね? さらにハッピーな機能が……」
憧れの先輩はとても口達者で、
どんな追及の手も、鮮やかに切り返して味方にする。
あっという間に人だかりができていて、
終わってしまえば歓声の嵐。
それに比べて、僕の周りにはほとんど人がいない。
「地味ですけど、その、ホントは面白くて……」
「い、意外と奥が深いんです」
「幸せにもなれます! た、たぶん」
生きる意味のセールストーク。
ありもしない商品を売りつける力が、
僕にはどうも足りないらしい。
早々にブースを畳んで、僕はぶらりと家路に着く。
これで仕事はおしまい。
あとは自分の好きにさせてもらおう。
「時に人は善い行いをする。これを学習させよう」
「はい。できる限り学習させます」
「時に人は悪い行いをする。これも学習させよう」
「はい。できる限り学習させます」
完成したロボットは、
床を殴り、物を投げ、雄叫びを上げ、人を罵り、
アリガトウゴザイマスとお辞儀し、蛇口を全開にした。
「何の騒ぎだ。一体、どうしたというのかね」
「今調べます!」
慌てた助手がロボットを止めてプログラムを確認する。
搭載された行動パターンは、
善行が1割、悪行が9割だった。
「もっと善行を増やせんのかね」
助手は頭を抱え、匙を投げた。
「もう、思いつきません!」
仲間とはぐれた私は、
ずいぶん遅くになって、
この青い星に辿り着きました。
この星の住人たちは、
群れをなす仲間たちに願いを託し、
もう家へ帰ってしまったのでしょう。
落ちこぼれの私は、
誰にも見られず、
誰かの願いを叶えることもできないまま、
ひそかに消えてしまうのでしょう。
おや。
貴方はまだ、空を見ていたのですね。
悲しくて、悲しくて、
願うこともできないほど悲しくて、
夜空に縋っていたのですね。
大丈夫。
貴方は間もなく幸せになります。
私には未来が見えるのですから。
だから今はたくさん泣いて、たくさん眠りなさい。
ありがとう。
美しい目をした星の子よ。
貴方の未来に有らん限りの幸福を願って。
「覚悟はできた?」
「望むところだ」
「やべえ笑う」
「背縮まるよ」
「俺がパリピ」
「義母を褒め続けて」
「ポン酢」
「土下座」
「治具」
「ばぶみ」
「ナビ」
「銭」
「紐」
「船」
「犬」
「へそ」
「朝湯」
「寿司」
「……」
敗者は叫ぶ。「ぷぺーーー」
「もう少し、具体的なエピソードはありますか」
「それは短所ではありませんよね」
「他に、あなたをアピールするお話はありますか」
あーあ、またダメだな、これ。
しどろもどろに話しながら、俯瞰した自分がいた。
そんなに銃口向けなくてもいいじゃん。
開始早々、集中砲火にクロスファイア。
すでに心は蜂の巣もよう。
「では最後に、何か聞いておきたいことはありますか」
もうどうにでもなれっての。
人生を決めるはずの面接が他人事に思えてくる。
練りに練って用意した質問を適当にぶつけ、
そそくさと会場を去った。
冷静になると、俺はひどく落ち込んだ。
ただでさえ能無しなのに、途中で諦めてどうすんだ。
電車内でのひとり反省会。自分に腹が立つ。
でも、後半は悪くなかった。
少なくとも、話したいことは話せた。
何でだ? あれだ。やけになったからだ。
蜂の巣の心は、思ったより軽く、丈夫らしい。
何となく、コツを掴んだという実感があった。
「あれ、先輩。奇遇すね。面接どうでした?」
「まだまだこれからだっての」
「そうなんすか。先輩、スーツ似合いますね」
「ああ? 冷やかすんじゃねえよ」
眉間に皺を寄せて、俺はそっとはにかむ。