目が覚めたから、縁側に腰掛けていた。
雨上がりの空は、まだ暗い雲に覆われている。
朝日は見られるだろうか。
静寂の中、息をつく。
もくもくと膨らんだ灰色の気分を持て余していた。
柄にもなく緊張しているというのか。
軒先から雫が垂れた。
なんとなく目で追うと、それは地面に染みて見えなくなった。
しずくなら大丈夫だよ。
親友の声が蘇る。
どんなとこでも、すぐに馴染んでやっていけるって。
「だからお互い頑張ろ、か」
呟く。拳を上げて伸びをする。ついでに欠伸も。
大丈夫だ。きっと。上手くやれる。あの子も。私も。
庭先に、桜の木が春を告げようとしている。
今日この里を出る私を、そっと見送るように。
対価という言葉を知ったのは、いつの事だろう。
サンタにお礼ができなくて、
新年になればタダでお年玉が貰えた。
期待されてるのだと思った。
私がいつか大人になった時、すごい人間になって、
みんなを喜ばせてくれるようにと。
そう思った次には怖くなった。
無理だ。いつか期待はずれになる。
自分が大それた人間じゃないことは薄々わかっていた。
だからその年の誕生日に、
「お祝い何がいい?」と聞かれて、
「何もいらない」と答えた。
両親が困った顔をしたから、
どうしていいかわからなくなって、涙が出た。
少しは成長した今では、
ありがたく受け取って、少しずつ返そうと思う。
両親に対してもそうだけど、
私を育ててくれた世界に対して。
私には何ができるだろう。
やっぱり今も自信がないや。
それでも、いつか。
この世界の未来を見ている間は、
たぶん、本を読んでいるのと同じような感覚で、
没頭して、熱中して、泣いて、笑って、心動かされて、
少し賢くなったような気になって、
かけがえのない体験をしたと喜ぶだろう。
だけど、未来を見た後に感じるのはきっと寂寥感だ。
読書を終えた後の、後ろ髪を引かれるような心地に似ている。
物語の世界に、私はいない。
見てきた未来に、私はいない。
未来を見続けている限り、その未来に私は存在しない。
だから、見るのをやめて動き出す。
遊びでも、読書でも、何でもいい。
私が体験する未来は、この目でしか見えないのだから。