すれ違い
・・・『でさ、ところでまだ定職、決まってないよね?』
「もう少し、ゆっくりしようかと思ってます。」
・・・『私の知り合いが、ちょうど人を紹介して欲しいって連絡あってね、、、、もうそろそろ仕事してみないかなと思って、、、。私が今、紹介出来るような人他にいないし、とりあえず試用期間だけでも、いってみなさい。いい?いつからいける?先方に連絡入れとくから。』
ハイハイ、どうせこっちの意思は関係なく強制ですよね・・・この恩師は何かと気にかけてくれる、この世で絶対に頭が上がらない人の一人だ。
ただ、今までも、きっとこれから先も、必ず僕にとって有益な方向を示してくれる。
「んー、じゃあ来週の月曜日からなら、、、」
・・・『わかった、細かいことはまたLINEしとくね。ちゃんと頑張るんよ!じゃあね。』
「さすがに早すぎたかな、、、少し時間つぶして行くか、、。」
初日指示された出勤時間30分前、駐車場の一番端に止め、icosを何度も口に運び、緊張と不安をごまかしていた。
動画チャンネルに気を取られて、全然気がつかなかった。真横に真っ黒のSUVが止まっている。メガネをかけた小さな横顔が視界に入った。
・・・めっちゃ、カッコいいなこの人・・・モテるんだろーな、ん?、いや、・・・女じゃね?マジかっ!カッコいいじゃねーな、なんて言えば、、、やっぱ、美人ってことよな、カッコいいということは・・・。
いつものように今日の仕事の割り振りや注意事項を、端的に的確に伝えている。ショートカットとメガネがこんなにも似合う、カッコいい人、、、、間違いなく、好きになってしまっている。この人のこと。
今日までの試用期間3ヶ月、ただこの人に会えるからここに通っていたようなものだ。正直、仕事の相性はそれほどよくなかった。きっと仕事に対しての、そういう感情は、勤務態度や言動にでていたのだろう。1週間ほど前、社長からオブラートに包みまくった遠まわしな退社勧告を告げられた。
・・・「じゃあ、来週の水曜日、今月の末までで、、お世話になりました。」
3ヶ月、人生の無駄遣いしてしまったかな・・・今日で、最後か、、、もう会えなくなるな、、、答えのない自問を続け、この3ヶ月を振り返ってみる。満足も落胆もしてない。唯一の特別な思いの方も、何にも始まってないし、一方的な妄想以外に、あの人と共有できるものは何もない、、、。
ここ数年は全く恋愛とか、縁のない生活で、正直やや諦めも入っている。
・・・今まで通り、何事もなかった感じで帰ろう。あーあ、すぐに忘れられるかなー、、、。
いつものように、夕方の5時少し過ぎにタイムカードを押し、こちらのことなど気に留めていない様子で、彼氏の話を楽しそうにしている元同僚たちの横を、小声で「お疲れさまでした。」と言い、小さく会釈をして駐車場に向かった。
・・・ウソだろ?!
「今日まで、お疲れさまでした。あと、ありがとうございました。短い間でしたが、居てくれた間は本当に助かりました。残念ですけど、これからも、元気で頑張って下さい。、、、、じゃあ、、、。」
「あ、あの、こちらこそありがとございました。あなたが居てくれたおかげで毎日目の保養ができました。」
、、、終わった。
、、、何言ってんだ。
、、、バカか、お前は。
、、、次とか、一瞬で消えたな。
何度目かの片思いが、自ら終わりを告げようとした。
こっちの道から帰ろう。
確かこっち方面に帰ってたはずだ。もう一度あの人に会えたら・・・気づいてくれたら・・・何か始まるかもしれない。具体的には全然確信も無いけど、冷静に考えて何一つ始まりはしないし、どうかすれば、すれ違いざま、こっちに気づいてくれることすら無いと思う・・・けど。
最後に声を聞いた、退職日から3ヶ月、帰宅時間が少しでもかぶっている日は、必ずこっちの道を通って帰っている。
・・・縁がないんだろうな。やっぱり。・・・そんなもんだよな。いつものことだよ。
・・・学生だった頃、初めての片思いが終わった。あれから何度、片思いを終わらしてきただう。
あの日の放課後とよく似た夕暮れに、全力でプロポーズした夜、嬉しさと、緊張がまざってなかなか眠れない中で聞いたカミングアウト。
、、、初めて知った。
あの駐車場から、2人同時に気持ちが動き出していたことを。
思いをあきらめかけていた、あの3ヶ月、会える確証なんて全く無いのに、遠回りして、黒のSUVがこちらの帰宅する道の方向を選んでたことを。
・・・会えなかったわけだ。
・・・思いっきり、すれ違いじゃん。
すれ違った時間の長さが、なんだかすごく大切なものに思えた。
ナリスケ
やわらかな光
携帯の目覚まし音、ロボットのようなコンビニの応対、換気扇や空調が奏でる無機質、走る自動車、学生たちのバカ笑い、、、一日の始まりから終わりまで、自分でも気づかないほど小さな、硬く尖った小石ような不愉快は、いろんな音や形に化けて四方八方から問答無用にとんでくる。ココロの中に積もっていく。
どんなにココロに平穏を言い聞かしても、どんなに無関心を決めこんでも、何処かに何かしら不愉快を感じない事なんて、、ない、、、
ココロガヒトヲスキニナルマデハ。
微かに揺れるレースカーテンの前
で、安堵と安心を浮かべた寝顔で、幸せそうなうたた寝を透して見えるこの日常は、どんなに眩しい朝の光や、寂しさ溢れる夕方の光も、この変わりばえしない窓の外や、街の喧騒も、全部がやわらかな光にみえてくる。
やわらかな光に包まれる度に、張り巡らしたココロの防御が剥がれ落ちていく。
やわらかな光に包まれる度に、崩れかけた、ココロが支えられる。
やわらかな光に包まれる度に、人を好きになる事の素晴らしさを、ココロが思いだしてくれる。
あなたは誰に、やわらかな光をもらってますか?
あなたは誰に、やわらかな光をあたえてますか?
放課後
なんで、まだいるんだろう?
なんで、グラウンドの方見てるんだ?
なんで、、、?
この世にこんなに可愛い子が存在している事に衝撃を覚えて2年と半年。
登校する意味の95%は確実にその存在が占めている。
いつもの練習に全くついていけない。、、、なんで?、、、あれ?サッカー部?、、、サッカー部を見てる。
なんで?、、、まさか?いや、ウソ?
なんで、、、、?
校舎を出て、駅まで向かう真っすぐの歩道、少し前を同じ方向に歩いて行く二人の後ろ姿。なんで、、、。
あんな笑顔初めて見た。
こんなに誰かを思う事が嬉しいなんて。こんなに誰かを思う事が辛いなんて。
初めて知った。
初めて見る、あの笑顔、、、。
あの日の放課後から止まったままの時間を、、、あの日からいくつもの偶然と偶然を演じた必然で、たどり着いたこのときに、、、全てを。
内ポケットを何度も何度も確かめる。小さな箱の中で、小さな瞬きを放つ給料3ヶ月分。
あの日の放課後と同じ、喧騒と夕暮れの待ち合わせ10分前。
何度もココロの中で繰り返す、、、。
僕と結婚してください。
ナリスケ
カーテン
やっと今週も半分過ぎた。
体力的には全然元気なのに、静まったいつもの部屋に帰った瞬間、また声に出してしまった。
「あぁ、、、疲れた。」
動く気にならない。洗濯、夕飯、シャワー、、、気がめいる。
「、、、ヨシ、やるか」
カーテンをしめ、完全なるパーソナル空間に安堵する。
明日から今週も後半だ。
頑張ろう。
今日も明日も明後日も。
ナリスケ
今更とか、何度もとか、いつものこととか、、、最後には、いつも自分のなかでは当たり前の出来事として着地する。
金が無い。