ロイチ

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4/22/2023, 10:44:09 AM


「これって、セケンイッパンではまちがいらしいよ」
「知ってる。ジョーシキとか、リンリとか、あと、ホンノーでしょ?」
「じゃあ、君は悪い子だね」
「じゃあ、君も悪い子だね」

 堕ちることも、沈むことも、躓くことも、止まることも、惹かれることも、惹かれることも、拒むことも、諦めることも、ぜーんぶ間違いで。

 そんなに間違いで溢れているなら、間違いじゃない人間なんか一人もいないでしょう。
 そうしたら今度は、誰がより間違っているかの背比べ。
 踏んづけなきゃ、踏んづけられるから。

 でも、

 踏んづけられて、踏んづけられて、ぺしゃんこになっても、守りたかったんでしょう。
 じゃあいいよ。いいよ。
 このサヨナラも、きっと間違いだけど。
 このごめんねも、きっと間違いだから。


#たとえ間違いだったとしても

4/22/2023, 4:31:14 AM


 新月の晩、私には餌が与えられる。

「良い子にしてた?」
「…………」
「ああ、轡を外してあげて」
 ひと月ぶりに外される口枷。けれどすぐには話してはいけない。
「語りなさい」
「……」
「語りなさい」
「……」
「語りなさい」
「…………おひさしぶりです、あるじさま」
「もうっ、面倒ね!」
 今代のあるじさまは随分なお転婆で、千年前の取り決めをことごく「古臭い」「時代遅れ」「面倒」と軽んじている。
「この儀式もどうかと思うのよ。悪趣味」
「あるじさま」
「分かってます。さ、始めましょう」

 よく清められた小刀の鋒で、人差し指の腹を裂く。
 滴り落ちる、その一雫が私の餌。
 跪き、仰ぎ見て、無様に乞い願う姿勢を取る。
 憐れみと、蔑みと、少しの加虐心。目は口ほどに物を言うとは、よく出来たことわざだ。

「それじゃあまた、次の新月に」
「ええ、また、あるじさま」
 良い子にしていましょう。その一雫のために。
 
#雫

4/20/2023, 12:18:49 PM


お腹いっぱい。ほんとにずっとお腹いっぱい。
 お高いシャンパン開けて貰って、今日はお父さんお母さんお姉さんがいるからね。子どもはいっぱい食べなって。
 
 美味しかったんよ。めちゃくちゃ美味しくて。
 話も楽しくてお腹痛くなるほど笑って。いつも物静かなお父さん()も珍しく笑って。
 デザートまで二皿。
 
 もうほんと、今何にも入らない。
 何もいらない。
 
 白湯飲んでストレッチしてマッサージしなきゃ……。
 
 ほんとにご飯美味しかったの……。

#何もいらない

4/20/2023, 8:01:47 AM

もしも未来が見れたなら

もしも昨日の自分に、未来が見られる能力があったなら

飲み会ドタキャンした人間の分のコース料理しっかり食べ切ったりしない
一番若いんだからの声に押されて食べたりしない

そんな若くない
気持ち悪い
すごい体重になったぞお前

4/18/2023, 3:22:11 AM

「サクラサク、だって」
「知ってる。A判市内校だからな」
「こっちはサクラチル?」
「わざわざ受験生煽る文言書くかよ」
「機嫌悪いねぇ、お腹空いた?今日は唐揚げがいいな」
「第一志望に落ちたから落ち込んでんだよ、合格出てんだから今日は俺のお祝いに決まってんだろ、何リクエストしてんだ」
「そんなに怒んないでよ。いーじゃん、春からも一緒の学校だよ?」
「だから市内より偏差値低い県外を第一志望にしたんだけどな。これで向こう三年までお前に振り回される未来が確定したわけだ、くそ」
「振り回してませーん。好きなことしてるだけなのに止めたり突っ込んだり助けたりフォローしたり勝手にしてるのはそっちでーす」
「お前の好きなことはもう人外の域なんだよ」
「その人外を目の届かない所に放ったところで、心配で胃に穴があく未来しか見えなくない?」
「どの口が」
「あっ、あの子もあの子も合格だって!みんないっしょ!」
「………おい」
「うん?」
「大人しくしとけよ」
「……どうかな。楽しいことがなければ、オトナシクしてられるよ」
「くそつまらねぇ学校生活を祈るよ」
「そこは寺の子なんだし仏さまに一発祈っとこ。なーむー」
「おいやめろ」

 コイツの前では神も仏もいない。何度目かに思い知るのは、二週間後の入学式。
 満開の桜が一陣の風で全て散り去る怪事件。薄気味悪さと重苦しい空気が校内を駆け抜け全校生徒がザワつく中、無邪気に目を輝かせ「残念だったね」と俺に言ってのけたあの憎たらしい顔を、生涯忘れないだろう。

#桜散る

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