#言葉に出来ない
春爛漫とは、春の花が咲き乱れ光あふれ輝くさまのことを言うらしい。
確かに近所の公園も家の庭にも大小の花が芽吹いて、冬の景色から明らかにカラバリが増えている。
風は冷たさがゆるんでるし、肌に届く紫外線も日々攻撃力が上がってるっぽい。
うん、たしかに春爛漫なんだろう。
視覚・触覚的には。
今聴覚に届いているのは、
ローティーン女子グループ特有の超音波おしゃべり
自転車シャーシャーチリンチリン
なんか多分オリンピック影響で始めたのかなっていう集団少年スケボーがコンクリを削るガーガーガタン
田舎でイキってどうする外車とバイクのエンジンブーン
公園に集まる小さなニンゲンの号泣輪唱etc.
身に覚えのある音もあるし、自分はこの先の人生でも絶対出さない音もある。
せっかくだし、自分だけの辞書には春爛漫の欄に「冬は鳴りを潜めていた人の生きてる音が溢れるさま」を付け足そう。
ご近所迷惑な音が聞こえるのも、春だからと思えば何となく許せそう。
……いややっぱうるさいな。
#春爛漫
ずっと見ていた。
誰よりも近い距離で、誰よりも長い時間、ずっと見ていた。
だから、知ってる。
笑っていた。
喜んでいた。
照れていた。
怒っていた。
焦っていた。
泣いていた。
耐えていた。
疲れていた。
だから、仕方ないと思う。
「こういう結果」になったことは、
許せないけど、信じたくないけど、やるせないけど、出来ることなら夢であって欲しいけど。
それでも仕方ないと思う。
ずっと見ていた。
誰よりも近い距離で、誰よりも長い時間、ずっと見ていた。
それなのに。
君が君を傷つけない理由に成れなかった。
こういう、結局自分のことだけしか見てない僕は、
誰よりもずっとずっと長い時間、
君を、君だけを見ていなかったんだ。
#誰よりも、ずっと
起きなきゃいけない時間の一時間前に目覚ましアラームセットして。
起きたら気持ち悪くてちょっと嘔吐いて。
ペットボトルのお茶飲んで。
ソシャゲのデイリーこなして。
そこら中に撒き散らしてる投稿サイトの通知チェックして。
何となくやだなって思いながらご飯食べて。
出かける前の休憩が15分以上無きゃだめで。
エンジンかけてその日のメンタルに合わせたプレイリストセットして。
何となくやだなって思いながら運転して。
いざ着いたら優しい人たちがいるからわりと何とかなって。
それでも何となくずっとやだなって思いながら一日過ごして。
帰りはあそこに寄ろうって決めても、疲れてるからやっぱりやめようってなって。
寝るまでの時間を出来るだけ延ばすように過ごして。
明日が何となくやだなって思いながら目を閉じて。
そういうのが、これから先もずーっと続くんだな。
#これからも、ずっと
「沈む夕日」
彼女が帝位に就いたのは、齢15の時。
先代が病に倒れ、継承権を巡る派閥争いをきっかけとした内紛が城外へと飛び火し、内乱、王政反対運動、近隣諸国の侵攻を許し、建国以来の危機に直面していた。
彼女は生まれながらの王だった。
彼女の声が法となった。
彼女の往く跡が領土となった。
彼女の腕に抱かれた者が子となり民となった。
娘であり、母であり、友であり、
守護者であり、賢帝であり、仁君であり、
征服者であり、愚帝であり、暴君であり、
またそのどれでも無く、全てであった。
あらゆるものを等しく照らし、灼き尽くす。
故にわたしは、記録書にこう記した。
日輪王
大仰過ぎると、何度も修正を求められたが、頑として受け付けなかった。
わたしのこの筆が、必ず歴史となるのだ。わたしが彼女を名付けるのだ。
しかしこの記録も、今日で役目を終える。
彼女が殿下と呼ばれた最後の日と同じように、人目を忍んで誘われた、封鎖塔の屋上。
「覚えているな」
「ええ、必ず最後までお供すると」
「約束は果たされた。その忠義、信心、親愛に感謝を」
「……ご冗談を」
「いいや、自然の理のままに。――落陽だ」
全てが終わるだろう。
苦しみには解放を、享楽には終焉を。
与えたように奪い、奪ったように与え。
初めましてのように、さようならを。
沈む太陽は二度と昇らない。
おやすみなさい、来ない明日を夢見る子らよ。
今はただ、穏やかな残光に最後の口付けを――。