ロイチ

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「沈む夕日」

 彼女が帝位に就いたのは、齢15の時。

 先代が病に倒れ、継承権を巡る派閥争いをきっかけとした内紛が城外へと飛び火し、内乱、王政反対運動、近隣諸国の侵攻を許し、建国以来の危機に直面していた。

 彼女は生まれながらの王だった。
 彼女の声が法となった。
 彼女の往く跡が領土となった。
 彼女の腕に抱かれた者が子となり民となった。
 
 娘であり、母であり、友であり、
 守護者であり、賢帝であり、仁君であり、
 征服者であり、愚帝であり、暴君であり、
 またそのどれでも無く、全てであった。

 あらゆるものを等しく照らし、灼き尽くす。
 故にわたしは、記録書にこう記した。

 日輪王

 大仰過ぎると、何度も修正を求められたが、頑として受け付けなかった。
 わたしのこの筆が、必ず歴史となるのだ。わたしが彼女を名付けるのだ。

 しかしこの記録も、今日で役目を終える。
 彼女が殿下と呼ばれた最後の日と同じように、人目を忍んで誘われた、封鎖塔の屋上。
「覚えているな」
「ええ、必ず最後までお供すると」
「約束は果たされた。その忠義、信心、親愛に感謝を」
「……ご冗談を」
「いいや、自然の理のままに。――落陽だ」

 全てが終わるだろう。
 苦しみには解放を、享楽には終焉を。
 与えたように奪い、奪ったように与え。
 初めましてのように、さようならを。
 
 沈む太陽は二度と昇らない。
 おやすみなさい、来ない明日を夢見る子らよ。

 今はただ、穏やかな残光に最後の口付けを――。

4/7/2023, 12:35:49 PM