「子供のままで」
子供のままでいたいと思う。
この世界を知らない子供のままで。
この世界はあまりに理不尽だ。
子供のままでいられたなら、この世界の黒い部分を知らなくても済むのだから。
そんなことが出来たら、どんなにいいだろう。
無邪気で、無垢な子供のままでいたい。
あの頃は良かったな。って何度も思うの。
愛を叫ぶ。
暗闇の中で。
私の恋人は”ヤミノカミ”。
たまに癇癪のようなものを起こすと、辺りが暗闇に包まれる。怖い。
でも、落ち着いて、落ち着きを装って、宥める。
そして、”アイシテル”というと必ず収まるのだ。
私は、ヤミノカミの癇癪が収まり、闇が晴れると、いつも怖くて泣いてしまう。
正気に戻ったヤミノカミは私を抱きしめ、頭を撫でて、謝るのだ。それが習慣となっている。
「モンシロチョウ」
私は小さい頃、人とは違う何かと出会った。
そのヒトは名を”ヤミノカミ”と言った。
自分を”神のなり損ないだ”と言った。
そして、名前を聞かれて”美月”と答えた。
その頃は深い意味は分からなかったが、”神”ということから”すごい存在”ということだけを思っていた。
その”神のなり損ない”は、私にこう言った。
「お前はいずれ、人の世で生きられなくなるだろう。
人の世にいずらくなったら、こちらに来るといい。」
それから十数年。
高校生となった私は、生きるのに疲れ果てていた。
小さい頃から否定され続け、理不尽に合い、猫を被らなければ”普通”でいられない。人と仲良くなっても、すぐに相手の”裏の顔”が見えて怖い。
辛くて、苦しくて。
死にたくなってしまった。
人の輪の中にいることに”違和感”と”罪悪感”を感じてしまった。
死のうと思ったけど、死ねなかった。
そして、ある日。
小さい頃に会ったヒトのことを思い出した。
そして、森に行くことにした。
その道中、不思議なモンシロチョウが飛んでいた。
私はそれに惹かれるようにして、後を追った。
その先にいたのは、小さい頃に会ったヒトだった。
「よく来たね、美月。
人の世に疲れてしまったんだね。」
そして、ヤミノカミが私の頭を撫で、抱きしめる。
「もう、頑張らなくていい。
気を使う必要も、我慢する必要も無い。
美月が傷つくこともない。
よく頑張ったね。」
そして、私は泣いた。
その間、ヤミノカミは私を抱きしめ、頭を撫でていてくれた。心から安心し、人の腕の中で泣くのはいつぶりだろう。今まで我慢していたものが全て溢れ出た。
そして、私は寝てしまった。
忘れられない、いつまでも・・・。
いつまでも忘れられない嫌な記憶。
嫌な記憶だけが鮮明に心に残っている。
そのせいで楽しい記憶が薄れていくのだ。
嫌な記憶ほど忘れられないものだ。
”時が解決してくれる”
”嫌なことは忘れよう”
時の流れで忘れられてたら、こんなに苦しくない。
ずっと、ずっと残り続ける。
”否定され続けたこと”
”理不尽に怒鳴られたこと”
”理不尽に怒られたこと”
それを忘れられるか?
忘れられていたら、人を信じられないなんてことには至っていなかっただろう。
自分でも分かる、”グレてしまったな”と。
嫌なことを忘れられずに、ため続けて、”あぁ、この人も理不尽に何かしてくるのだろうか”と”この人には裏があるに違いなくて、裏切られたらどうしよう”と心のどこかで思ってしまう。
仲いい子でも、内心どう思われてるのか怖い。
”もし、突然裏切られてしまったら?”
”もし、突然嫌われてしまったら?”
”もし、突然友人関係が崩れてしまったら?”
怖い、怖い、怖い、怖い。
人間関係が崩れるのがいちばん怖いのだ。
そうなれば、”一人になる”し、”避けられる”場合だってあるのだ。それは、”普通じゃなくなる”ということだ。
私はこれ以上”普通”じゃなくなるのが怖いのだ。
1年後か。
何してるだろうか。
もう疲れてしまった。
最近は失敗ばかりしてしまうし、忘れ物も多い。
周りには迷惑をかけてしまう。
それに、何かをする気力も薄れてきた。
常に眠くて、常に疲れてるのだ。
楽しいと思う気持ちも薄れてきた。
とにかく何もかもが面倒で仕方ない。
常に猫かぶっていないと普通でいられなくなる。
笑顔を作って、頼まれ事は断らない。
言われたことは完璧にこなして。
積極的に仕事をして。
認められる努力をする。
だが、褒められたとしても「お前ならもっとできる」と呆れたような余計な一言が着いてくる。
そして、変な期待を持たれる。
どうすればよいのだろうな。
変に期待されても困るし、褒められたいし。
褒められたって素直に受け取れなくなってしまった。
人間不信になってしまった。
はぁ、誰かに思いっきり甘えたい。
甘やかされてみたい。
何もかもに疲れてしまったのだ。
猫かぶって、嫌なことも文句言わずにやって、仕事を積極的に引き受けて、失敗して怒られる。
いつの間にか引き受け過ぎてキャパオーバーなんてこともあるのだ。
どうすれば良いかなど分からぬ。
休むことも出来ないし、自分の悩みを人に話して傷つくことが怖くて言えない。
この世の中はなぜこんなにも生きづらいのだろうか。
生きている意味を見出すことは出来ない。
生きている意味はあるのだろうか。