ーさよならを言う前にー
引っ越しが決まった
段ボールに、思い出を詰め込む
ふっと、写真立てを眺めながらユニホームを来て友達と笑顔で写った光景を思い出す
もう一緒には通えない
新しい場所への不安と寂しさがつのる
それでも最後の日には言わないと
ありがとう、元気で、連絡するね、また会おう
ー目が覚めるとー
寝入りに入りながら今日の反省と明日の段取りを考えていた
ふっと、頭によぎった事をメモしなくてはいけない衝動にかられて再び起きようとした
身体が重くて動かない
意識ははっきりしているのに、手も足も動かない
これが金縛りか
頭の中では女が這いずって来る悪い想像が巡る
目を開けてはいけない気もしたが確認せずにはいられない
瞼に力を込めてやっと目を開けて周囲を 見るといつもと変わらない見馴れた天井
ホッと胸を撫で下ろしメモは忘れて寝る事にした
眩しい日差しに目覚めると変わらない朝が来ていた
ー神様だけが知っているー
鈴を鳴らし2礼2拍しお祈りをする
どうかまだ連れて行かないでください
電話があったのは何時の事か
頭が真っ白になっておぼろげだ
車で向かったが覚悟してくれと言われた
いつでも大丈夫と思っていた事で希薄な関係になっていた。
どうか
ーこの道の先にー
山に登ろうと無理矢理友人に連れられた時は鬱々とした気持ちだった
重い足を引きずりながら、自分は何をやってるんだろうと何回も考えた
立ち止まっては何度も呼吸を整える
ふっと、無駄じゃないだろうかと考えがよぎり、先を行く友人を見て頭を横に振った
道を囲む生い茂る草も周りを飛ぶ虫も全てが鬱陶しくて仕方ない
息を吐いて再び登る
開けた所に出て、漸く終わりがきた事を知った
友人が先の方で手を駒根いている
大きく息をするとひんやりと冷たい空気が入ってきて心地いい
上から見える山々は下ばかり見ていたそれより爽快だった
罵倒する上司も駄目な自分もヒソヒソ話す周囲も何も変わらない。
けれども、凝り固まった中の苦しいモノは拘りと痛みの塊で、爽快さはそれらを吹き飛ばしてくれた
自分なりに工夫出来る事を見直そう、そう教えてくれた
それでも駄目なら、次へ
ー日差しー
自転車に股がり走らせる
どんよりと重い雲が何処までも何処までも続く
背負っているリュックに折り畳み傘が入っている事を頭の中で確認していると、湿った空気に身体が包み込まれる
思考を戻し、目の前に広がる雲にうんざりしていると遠くの町に日差しが見えた
早い雲の流れの中に一つ二つ薄明光線に照らされていた
行く方向は違うが風の流れでこの町にもくるだろう
傘が不要になる事を願って走らせた