「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない―――」
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もう何度目の目覚めだろうか
死んでも死んでも蘇らせられて
終わりの見えない旅を続けさせられている
「情けないならもう放おっておいて欲しいよ」
勇者はほとほと疲れていた
「もし、そこの勇者様」
「なんだ」
おざなりに振り返った先には一匹の魔物
本来ならば戦闘開始なのだが、勇者は疲れている
「随分お疲れのご様子
もしよければ我が里へいらっしゃいませんか?」
「里?魔物の里か、そんな場所へ行ったら余計に疲れるだろうが。御免だね」
「おや、お気づきではない?貴方様はとうに魔物となっておられますよ」
「なんだと」
聞き捨てならない一言に詳しく聞けば、繰り返される蘇生によって勇者の魂は穢れ、とっくにアンデッドと変わらぬ形となっているらしい。
「なんてことだ、俺は一体何のために今まで…」
「お気持ちお察しいたします。どうか我らの里にて心身ともに寛いで頂ければ幸いでございます」
気落ちする勇者は魔物の誘いを断る気力がおきず、魔物についていくことにした。
行き着いた先は小さいながらも穏やかで、魔物の里と言われなければわからないほど魅力ある里だった。
魔王討伐を命じられ過ごしてきた日々
挙げ句に魔物堕ちという結末に、勇者はやるせない気持ちを抱きつつも、どこかホッとしている自分がいることに気づく。
「此処では何も気にせず好きなように生活なさってください。ずうっと居て頂いても構いませんので」
魔物たちに歓迎された勇者は、こうして里に留まった。
..........
「今回も上手く引き込む事が出来ましたね」
「そうだな、あいつで何人目だ?」
「さあて、でもこれで勇者は居なくなったので暫くは我らの自由ですね」
「しかし全く哀れなものだ、次々アンデッドを生み出すあやつこそが魔物なのではないか」
「ええ本当に、怖ろしいですね。しかし仲間を増やしてくださるお方とも言えますから」
こうして、魔物の里は着々と繁栄されていくのであった
『目が覚めると』
死神は雪の深い夜街に辿り着いた
今日の職場だ
ローブ目深に網を持つ
鎌ではない網だ
この世界では死者の魂は網ですくい取る
ふよふよと揺蕩う光をそうっとすくっていく
粗方取り終えた死神は、人気のない路地に
少女を見た
粗末な服で、この寒さは凌げまい
少女の側でその時を待つ
籠に入ったマッチは古く、箱が潰れているものもある
少女は少しでも暖をとろうとしたのだろう
廻りにはマッチの燃えカスが散っていた
死神に掬い取られる魂は
こぼれ落ちたマッチとともに
今夜も街を彩った
『街の明かり』
こんはずじゃなかったんだが
わしはただ、似合いの男女の仲人をしただけじゃ
いい仕事したわと思ったんじゃ
なのに
今年もこの時期になると起こるデモ
【恋人同士を引き離す極悪人】
【二人の結婚を認めよ】
【年一なんて酷すぎる】
わかっとるわい
そりゃわしだってずっと一緒におらしたい
でも駄目だったじゃろ?
あやつらが二人でおるとイチャイチャして仕事せえへんし
そいで迷惑かけることのが問題じゃから
年一なのは苦肉の策
会議でもそう決まったじゃろが
なんでわしばっかり責められ―――
はぁ
会わせるんじゃなかったわい
『七夕』
下駄箱から外に出た瞬間、一人がクシャミをした
「眩しいとクシャミでるんだ、これって4人に一人らしいぜ」
「は、は?オレは冷たいもの食べても頭キーンってならない体質ですけど?」
「え、じゃあオレはゲップが連続で出せるね」
「オレはどの関節でも自由にポキポキできる」
「じゃあオレは、えっとえっと―――」
『日差し』
ああ、まさか君があの時の娘だったなんて。僕たちは運命だ
額の傷を見て放たれた一言に、
体中に憎悪が駆け巡った
赤い縄が繋がった相手が、貧しく貧相な娘と知って殺そうとした相手によくもぬけぬけと運命などと
でも確かにこれは運命か
再びこの男に巡り会えたのだから
忘れない
忘れられない
あの頃の恨み
この赤い縄をおまえの首に巻きつけてあげる
『赤い糸』