"眠りにつく前に"
「〜と…。よし」
今日のページを書き終わらせ、日記帳を閉じて元の引き出しの中に仕舞い、引き出しの鍵を閉めて鍵をいつもの場所に隠す。
「さてと……」
椅子から立ち上がり、部屋の電気を消してベッドに腰掛け、ルームランプの明かりを付ける。明かりを付けると、ランプの脇に置いている読みかけの本を手に取り、下半身を掛け布団の中に潜り込ませ、枕を背もたれにしてベッドフレームに寄りかかって、読書の体制の出来上がり。本をパラパラと捲って栞を挟んだページを探して開き、昨日の続きから読み始める。
今読んでいるのは、不思議な珈琲店が出てくる少し不思議な物語の小説。ジャンルは……《ヒューマンドラマ》と……あと、少し《ファンタジー》要素がある…なんだろ…分からない……。
表紙のイラストが綺麗で惹かれて買ったし、あとジャンルの分け方もどんなジャンルがあるのかも分からないから『ジャンルは?』と聞かれたら、どう答えるのが正解なのか分からない。
あと物語の中に、星座や天体モチーフの料理やスイーツやドリンク──俺の星座《いて座》がモチーフのメニューは《射手座のりんご飴》──が出てくる。作中に登場する料理などのイラストがカラーで最初の数ページに記載されているが、そのイラストも綺麗。あと普通に美味しそう。
勿論ストーリーも描写もとても綺麗で、それでいて読みやすくて、結構好き。
「…ふあぁ〜っ……」
十数ページ読み進めたところで、手で口を覆い、大きな欠伸を一つ。
今開いているページに栞を挟んでルームランプの脇に置き、枕の位置を正して掛け布団の中に潜り込むと、枕に頭を預けてルームランプの明かりを消し、ゆっくりと瞼を閉じる。
穏やかに呼吸を繰り返し、少しずつ意識を手放して眠りについた。
"永遠に"
《永遠》のものなんて無い。
無いけど、受け継いでずっと続けていく事はできる。
一番分かりやすいのは、ものづくりの技術──切子硝子や木組みなど──と、調理法──料理店のレシピとか、一番身近なのは各家庭独自のレシピ──。
繊細で難しいけれど、美しくて暖かくて…。未受け継いでいきたい大切なもの。無くしてはいけないもの。
そんな素敵なものを、大切に繋げていく。未来永劫続いていきますように、と願いながら。
"理想郷"
《理想郷》?
俺にはそんなもん無い。はい以上。
……けど、強いて言うんなら……お化けとか幽霊とかがいないところ。あと《ホラー》って概念が無いところ。
『こんな歳になってまだホラーが怖いとか、ガキかよ』って思うけど、けど怖いもんは怖いんだから、しょうがねぇだろ。
『非科学的だ』って勿論分かってる。頭では分かってる。けど、実際に科学で証明できない《何か》のせいとしか思えない事柄が幾つかあるし、非科学的だからって《信じない》理由にはならない。
ホラー番組は効果音やカメラワークとかで恐怖心を煽ってるけども、話自体が怖いから余計怖くて無理。
お化け屋敷だって、外観がもう怖いし中も十分すぎるくらい怖いのに光や音で怖がらせに来るから余計に無理。
『何も知らずにテレビつけたりチャンネル変えたりしたらホラー番組だった』って事が何度もある。その度に『心臓が幾つあっても足りない』ってくらいに驚いてテレビを消したりチャンネルを変えたりして、小一時間バクバクと煩い心臓を落ち着かせるのに費やしてる。
勿論、番組表をチェックして気を付けてる。夏は特に。けどたまに、気を付けようとしていた時間帯とかチャンネルが頭から抜け落ちてしまって、盛大にやらかす。
だから、そういうのが好きな人には悪いけど、幽霊とかお化けとか《ホラー》とか、消えて欲しい……。
"懐かしく思うこと"
《懐かしい》と思う事は、良くも悪くもそれだけ自分が前に進んだ証拠だと思う。
だけど『あの頃に戻りたい』とは、微塵も思わない。
昔の方が良かったかもしれないけれど、これまで悩んで選んで来た結果が《今の自分》。だから、『あの頃に戻りたい』って思ってしまったら、当時の自分が選んだ道が《間違ってた》っていう証明になってしまう。それだけは嫌だ。自分の選んできた道を否定する事だけは、絶対に嫌だ。
どんな事にだって、《メリット》と《デメリット》がある。何を選んだってその二つがついて回る。それを百も承知の上で悩んで選んだんだ。
どんな《デメリット》が来たって、《間違ってた》って証拠にならない。選んだ結果そうなったってだけ。
《懐かしい》って思うのは別にいいし、過去を見て学び進む事もいいけれど、だからっていつまでも過去に執着していい理由にはならない。
過去は過去、今は今。
過去を省みるのは、《良い現状を維持する為》であり《悪い現状を打破する為》でもある事を忘れないで。
歩み続ける事を止めないで。
"もう一つの物語"
もう一つの…って事は、《もしも》の物語か?
《もしも》こうだったら、《もしも》あぁじゃなけりゃ…そういう物語か?
思った事はあるけれど、けれどそうじゃなかったから《今》があるって思ってるから、そこまで考えた事はない。
けれど、生体的な《もしも》なら、ちょっとは考えた事はある。例えば、俺が盲目だったら。耳が聞こえなかったら。体のどこかを自由に動かせなかったら…。
あと、…俺が女だったら。今の俺との差異が一番少ない《もしも》の話。
俺が異性だったら、なんて想像しづらいけど、多分まともな女じゃない。身を置いている社会が社会だから、男装して男の演技をして女である事を隠して暮らしてそう。
それ以前は…、なんか自分で言うのもなんだが女っ気なさそう。化粧なんて全くしなさそうだなぁ…。やったって軽くで、メイク道具は周りの同性より圧倒的に少なそう。
あとお洒落にも興味無なさそうだから、持ってる服なんてシンプルなのばっかりだろう。俺がこうなのだから、動きやすさ重視で簡素なものばかり好みそう。俺の性格で考えると、きっとそんな感じだろう。
女の俺可愛げ無さすぎだろ。
「……」
そこまで考えたら、身体は?
身長は平均より少し高めか。体重は……「もっと食べろ」って言われる位軽いだろう。肉付きは、いくら女性ホルモンで丸みを帯びているからって、絶対薄い。だから胸も尻も小さい。
魅力まで無さすぎだろ女の俺。
「……」
なんだろ、なんか複雑。
自分で書いてて凄ぇ複雑。