ミミッキュ

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10/23/2023, 12:11:07 PM

"どこまでも続く青い空"

「…しっ、これで準備完了っと」
 今日の開院の準備をいつも通り全て終わらせた。開院時間まであと三十分ある。
──時間まで窓を開けて、外の新鮮な空気を入れようかな。
 正面玄関から一番近い部屋に行き、部屋の窓を開け放つ。ビュウ、と秋の冷たい風が一気に吹き込んできた。
「…寒っ」
 う〜…、と自分の肩を抱きながら寒さに身を震わす。
「うおぉ…っ」
ふと窓の外を見上げると、雲一つない、一面に澄み渡った青空が広がっていて、思わず声を上げた。
「……」
 ふっ、と微笑む。
──良い事あるといいな。……なんて。
 綺麗な空に少しの間見蕩れる。そろそろいいか、と窓を閉めて時計を見る。そろそろ時間だ。
 正面玄関の扉の前に行き、扉の内側を覆っていたカーテンを閉め、扉の錠を開ける。観音開きの扉の片方を開ける。同じ冷たさなのに、先程と違って穏やかな風が吹き込んできた。
「ふぅ……」
 その風の気持ち良さに、思わず一息吐く。空を見上げると、こちら側にも雲一つない青空が広がっている。
 よし、と身を引き締めると、扉を閉めて診察室に向かった。

10/22/2023, 11:04:40 AM

"衣替え"

──えぇっと?これは……こっちの箱。これは……。
 最近気温が定まってきたので、ようやく本腰を入れての衣替え。
──あ、これちょっと汚れてる。クリーニング行きだな。
 箱から出しながら、クリーニングに持っていく必要のあるものと無いものに分けていく。
「っと……これで全部か?」
 持っている服が少ないので早めに終わる。
──あとは掛け布団を洗って…。寝間着も今のを洗って仕舞ったら冬用のを出して…。その後は、持っていく服を畳んで袋に詰めて…。あぁ、あと暖房もちゃんと動くか見なきゃ。けど、急患が来る可能性を加味しないと……。
 頭の中で、すべき行動を上げて行動の順序を立てていく。春夏と秋冬の間は、仕事もプライベートも気温に踊らされて忙しい。
──この時期はいつもだが、やる事が沢山あるな…。手短にできる事から片付けねぇと…。

10/21/2023, 11:06:03 AM

"声が枯れるまで"

「いつか見た希望には…♪」
 作業中、思わず歌ってしまう。
 なぜか分からない、何だか急に歌いたくなって…。この場に俺一人だけで良かった。
 今歌ってるのは、男性バンドの曲。歌ってるのが男性で声の高さが丁度いいから、原曲のキーで歌ってる。
 実は、前に聴いてた曲と同じバンド。あの曲の曲調が気に入って、あの後他の曲もいくつか聴いた。今歌ってるのはそのうちの一曲。
 このバンドの曲は、歌ってて楽しい。一度歌い始めると、『声が枯れるんじゃないか?』って位に他の曲、他の曲とメドレーみたいに歌ってしまう。
「…よし。終わり」
 なんて歌っていると、思ったより早く作業が終わって一息吐く。
「……」
 冷静になって無言になる。
──誰も来なくて良かった。

10/20/2023, 11:20:35 AM

"始まりはいつも"

 始まりは俺の場合、日常の中に紛れ込んでる。俺はいつも通りの行動をして、いつも通りに対応しただけなのに、俺のいないところで話が進んで…。
 そうやって、俺のごく平凡な日常の中に、全然平凡じゃない別の日常が始まる。
 俺の始まりはいつもそう。物語は既に始まっていて、俺に拒否する事も物語を止める事もできない。ただ物語を円滑に進める為に動く事しかできない。
 始まったら始まったで、やる事が沢山あっててんてこ舞い。そりゃ、少しずつ慣れて習慣になったきた行動に新しい別の行動が入るのだから、てんてこ舞いになるのは当たり前。慣れるには時間がかかるから、しばらくはしょうがない。
 ちょっとずつ慣れてくりゃ、気になる事が出てくる。それを調べる為の時間が必要になる。納得がいくまで、とことん。
 ただとんとん拍子に進められて、そのまま流されるだけは嫌だから。物語は綺麗に終わらせたいから。

10/19/2023, 10:59:53 AM

"すれ違い"

 すれ違いは、お互いの事を殆ど知らなくたって起きるし、仲が悪くたって起きるし、親密になっても起きる。
 自分のエゴで起きる事もあるし、お互いがお互いを思うからこそ起きる事もある。
 関わっている以上、すれ違いが起きるのはしょうがない。
 そう、思っているのに、頭では分かっているのに。
 すれ違う度、もどかしくて、苦しくて…辛い。
 《違う》と伝えたくても「違う」が出てこなくて、「違う」以外の《違う》を伝える言葉も出てこない。そのせいで変に仲違いするのは嫌だ。なのに、言いたい事が沢山ありすぎて、
 何から言えばいいのか、どう言えばいいのか分からなくて、頭が沢山の言葉でとっ散らかって、言葉に詰まる。
 そうしている間にも、どんどん遠ざかってしまう。
 何か言わなきゃと思っても、どんなに引き止めようと声帯を揺らしても、引き止める為の言葉にならない。
 引き止めたところで、何を言えばいいのか分からないから。《行かないで》すらも言えない。
 こういう時『俺にもっと、言葉を伝える力があれば』『どうして俺の体は、こういう時に咄嗟に動けないんだ』って自分を責めてしまう。
 どんなにお互いの事を分かっていても起きる事だって、頭で分かっていたって、辛くて苦しいのに変わりは無い。
 傷付くのは俺だけで十分。そう生きてきたのに、今だってそう思っているのに。
 こんな思いは…嫌だ。

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