もっと知りたいけど、それはもしかしたら、たくさん知った物事の忘れ方、なのかもしれない。何なSF的なひみつ道具の作り方を研究して、徐々に知覚して、最終的にはそれが完成して、そうしたらその記憶も含めて、丸ごと忘れる。その道具の構造、金属の類はどれだけ、夢と希望の欠片はこれだけ。嫌な奴のああだこうだ、好きな人の僅かな仕草。それはそれは全て忘れるわけ。まあもちろん、私の研究は上手くいったから、変な熱暴走でも起きなきゃ全て忘れるわけで、それは本当の幸福なのかとか、私なりに考えて、その結果どうなったのか知っていたけどそれも忘れるわけで。
どんな痴態を晒して産まれてきたのか、どれだけ父母に愛されて、地域の人何某さんに愛されて生きてきたのか、そんなことも平気で忘れてしまうわけで。
だからと言って、そのひみつ道具だかなんだかの止め方も忘れてしまってる以上、何が何だかわからなくなって、全て忘れていく。
だからまあつまり、こんな事はしてはいけないわけで、するという選択が、ある種の地球滅亡になってしまうわけ。
そんな夢を見ていた。目が覚めて、手元の時計を見ると、おおよそ二十三時で、変な時間に起きたなと思うわけ。
なんだか嫌な夢を見たなと思いながらも、やっぱり嫌な事は忘れたいなと、冷蔵庫から缶チューハイなんかをごそごそ引っ張り出して、今宵もオールナイトの、晩酌が始まるわけ。
お題 : もっと知りたい
文字が届いた。綺麗に梱包されて。
だから僕には活字が見えて、それが夜を踊り明かして、身体中をくすぐってくる夢を見る。
だから僕は、笑いながらも少しだけ腹が立ち、送り主は誰だとダンボールを見やる。
びりびりに破かれた紙切れをなんとか組み合わせて、あなたの名前を見つける。
ああお前かと、僕はひそやかに笑う。
届けられた活字たちを、小さなメモ帳に糊で貼り付ける。そうすると、紙面を柔らかな枕に見立てて、それらは眠りについた。
自分たちをくすぐってくる人間の夢を見ながら、眠っている。僕はメモ帳を閉じて、彼らに毛布をかけてあげる。
それを見届けたら、僕は椅子に座って、机と向き合う。
机の中を漁って、小さな付箋を取り出す。無論、付箋がなかったら自由帳にするだろうし、それもなければ、活字たちを叩き起すことになるが、メモ帳を開く。
とにかくそうやって、貧相な万年筆を取り出して、億年の想いを紙に打ち明ける。
終わったら、宛名を書いて、封筒に詰めて、郵便局に行く。
寒々と吹雪く冬の風を額に受けながら歩いて、意気揚々と郵便局に行く。
そうして、受付の人に封筒を渡して、言う。
大事な人に届けるんです。
あなたに向けられた活字は、あなたにどんな悪戯をするのか。
僕には知るよしがない。
お題 : あなたに届けたい
月にお世辞を言えば、愛は叶う。
アホらしく密造酒を掲げて、その穴ぼこの魅力を小一時間ほど語ればいい。
帽子の角度を整えて。
シャツはしっかりと直して、自分の魅力をアピールする。月は面食いだけど、敷居は低いから誰に向けてもきらきら輝く。
だから、そうやって照れていないで
「愛してる」
と言えば、月は振り向くし、その言葉を聞き逃さなかったら、他の奴も寄ってくるんだろう。
世界一綺麗な、その交換手を介して。
お題 : I LOVE…
食べ物も、杖もいらない。
軍手なんてもってのほかで、立派な登山靴となっては、心配性のボンクラが持つ物だ。
ただ、身体を前進させるための脚があれば良い。
前に進めば、結果もついてきてくれる。
だってそれは、心の旅路だから。
厳かな名前に彩られただけの、ただの平原だから。
お題 : 心の旅路
もしも、凍てついた鏡に映る私が綺麗だったら
凍てついていない鏡像を偽物だと断定するだろう
数多の間違いが、その事情から正しさよりも優先されたように
つまるところ、やっぱり都合の良い答えを渇望していて
もしも、凍てついた鏡があったとして
その歪み、結露が醜い部分を隠して
私を美しくするのだったら
やっぱりそれを、事実としてしまいたい
そんなことをしたって、余程の事情がない限り
世界は見て見ぬふりをしてくれるだろうから
お題 : 凍てつく鏡