私は今日、初めて人を殺した。
優しくゆっくりと、その肩を押して私は屋上から親友を突き落とした。親友の表情は最初強ばっていたけれど、次第に緩んだ顔になり最後には全てを受け入れたような安らかな顔で落ちていった。一瞬でしかないその瞬間が、まるで十分のように感じた。
たとえ間違いだったとしても、私はこの選択、この行動に後悔はない。下を見る勇気がなく、私は上を向いたまま振り返り、どよめき叫ぶ声を背に自分の教室へ戻る。多分、すぐに私は捕まるだろう。でも、それほど恐怖も後ろめたさも罪悪感もない。
だって私は、死を望んだ彼女の背中を押しただけなのだから。
雫。その辺の通りを歩いていると、顔に冷たい雫が当たった。最初は雨が降るのかと思ったが、見上げてみるも空は快晴。けれど、何処からか誰かのすすり泣く声が聞こえる気がする。私は近くを見渡した。でも、人の影はどこにもない。
「なんだ、気のせいか」
軽い足取りで家に帰ると、中には誰もいなかった。お母さんもお父さんも、家には私一人。ふと何気なく机に目をやると、たくさんの診療明細書が散らばっていた。よくよく見ると、そこには私の名前とよく分からない検査の名前が並んでいた。
「あ、そっか。私って…」
私がいるはずの病室には、お母さんとお父さんの泣く声が響いていた。
「何もいらない」
幼なじみの誕生日、欲しいものがないか聞くとそう返された。普段から様々な物を衝動買いする割には、彼女にこれといった欲しいはないようだ。
「じゃあなんでいつもあんなに衝動買いしちゃうのさ」
「なんか、これが欲しいなぁって思って買うんじゃなくって、これがあった方がいいかもな。っていう気持ちで買うんだよね」
「何それ。凄く損しそう」
「でも、全部何かしら使ってるからいいんだよ」
私は彼女のそういう所がよく分からなかった。でも、余計な事を考えず自分の気持ちに従って行動している彼女が、私にはとても生物らしい綺麗な生き方だと思った。