阿呆鳥

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2/14/2026, 12:38:04 AM

【待ってて】

 待ち合わせには10分前に着くようにしている。相手を待たせたくないし、相手を待たせた時の罪悪感が酷いからだ。それに反し、私の友人たちはよく遅れてくる。それも連絡なしに。最初は少しの怒りと心配があったが、最近は慣れてしまって、こちらから連絡をするようにしている。

『もう着いた。ゆっくりでいいけど、なるはやで』

 冗談のように矛盾した言葉を並べ、誤字がないことを確認してから送信ボタンを押した。数分後に電話がかかってきて、息を切らせた様子で早口でまくしたてられる。

「ごめん、すぐいくから待ってて! 寝坊した!」
「そんなことだろうと思った。気をつけてね」
「まじごめーん!」

 笑いながら電話を切ると、近くのベンチに腰掛けてイヤホンをつけた。音楽を流しながらSNSを徘徊し、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。

 ふと時計を見れば1時間が経過していた。いくら寝坊して身支度に時間がかかったとしても、1時間はかからないだろう。不安で電話をかけるも繋がらない。何回鳴らしても機械音が繰り返すだけで、明るい声は聞こえてこなかった。
 とうとう友情関係の崩壊だと思って帰ろうとすれば、交差点に人だかりと、大きなトラックが不自然に止まっていた。周りの様子から察するに事故だろう。怖い物見たさで、人混みを掻き分けて前の方に出た。腕や足が不自然な方向に曲がった人らしきものが転がっていた。
 唐突に吐き気に襲われ、それを堪えながら近くの日陰に避難した。あの人らしきものは見覚えがある。機能まで一緒に笑い、今の今まで私が待っていた人物だ。収まらない吐き気と、溢れてきた涙を誤魔化すように俯いて深呼吸を繰り返した。

 その後のことは覚えていない。どうやって家に帰ったのかも分からないし、気づいたら友人の葬儀は終わっていた。いつも私を待たせていた友人は、私を待つ側に回ってしまったようだ。
 しかし、私の時間は待ち合わせたときの頃のまま動いていない。毎日のようにあの待ち合わせ場所へ行き、1時間ほど何かを待っている。彼女の最後の言葉に囚われたまま、私はいつまでも友人を待ち続けるのだ。

2/12/2026, 11:24:11 PM

【伝えたい】

 好きな人には好きな人がいるが、その相手は私じゃない。どうしても交わらない想いが苦しくて、叫びだしてしまいたかった。貴方のことを分かっているのは私だけ、一番見てきたのも私だよ、と。しかし、それを叫んだとしてもおふざけとして流されるのがオチだろう。幼稚園の頃からの友達だ。もはや家族だと思っているのだろう、相手は私を意識してくれていない。

「やっぱり、告白してくるわ!」

 何かと行動に移すのが早いところも好きだ。相手しか見えておらず、突っ走ってしまう所が長所であり短所なのだろう。どうか告白が成功しませんように、なんて願ってしまう私は相当性格が悪い。
 暫くして戻ってきた彼は、顔を真っ赤にさせて「成功した……」と呟きうずくまっていた。視界が歪み、足元がふらついた。あぁ、成功しちゃったんだ。
 いつまでも蹲っている彼の頭を叩き、溢れそうになる涙を堪えながら声を出した。

「おめでと」
「おう、まだ夢見心地だわ……てか、なんで泣いてんの? 大丈夫?」
「バカ。悔し泣きだわ。貴様の方が先に恋人ができるなんて……」
「はは、メンゴ」

 私が先に彼への想いを伝えてたら、結果は違ったのかな。黒く渦巻く気持ちを吐き出せずに、彼の背中を見つめて呟いた。

「大好きだよ」

 伝えられない想いを、いつか正面から伝えたい。

2/12/2026, 1:31:30 AM

【この場所で】

 小中学生で溢れた近所にある公園は、私だけの思い出が溢れた大事な場所で、大好きな人と出会った場所だ。滑り台で遊び、ブランコに揺られ、逆上がりの練習をした。
 鉄棒がずっと苦手で、授業で恥をかきたくなくて密かに練習していた。もちろん上手くできるはずもなく、泣きながら逆上がりをしようと頑張っていた。

「私が教えてあげるよ」

 2個上の女の子が話しかけてくれて、コツや腕の引き方を教えてくれた。習っていくうちに仲良くなり、かけがえのない大事な人となった。それは私からの一方的な想いだったけれど、変わらない親しい関係でいれれば良かった。

 数年が経ち、大きな交通事故が起きた。そして、それに彼女は巻き込まれた。それに悲しんだが、心には憎しみもあった。私を置いて恋人を作った彼女を、少し恨んでいたから。皮肉にも、その事故現場は思い出の詰まった公園だった。
 事故が起きたからと公園は取り壊されてしまい、思い出さえも失くなってしまったように感じている。それでも、私の人生を左右した彼女は一生涯忘れたくない。だから毎日のように公園の跡地へ来て、彼女を思い出す。
 彼女と出会い、恨んだこの場所で。

2/10/2026, 2:31:33 PM

【誰もがみんな】

 生きているだけで、人というものは学習をするらしい。呼吸の仕方、話し方、歩き方、意思疎通……。他の人が感覚で覚えていくことを、僕は理解していかなくてはならなかった。
 何をするにも考えてしまう。これは普通なのだろうか、これは他の人とは違うのだろうか、これは……。

「大丈夫?」

 息が浅くなっていた所、心配した声が降ってきた。心隠したかった部分を覗かれてしまい、心臓が早くなるのを感じながら走り出した。顔も名前も知らない、これから知り合うこともなかったであろう人なのに、自分の汚い部分を見られて恥ずかしかった。
 走り続けて辿り着いた川沿いを歩き、橋の影に隠れると一息ついた。

「はぁっ、はぁっ、はぁ〜……」

 無数に転がる石の上に座ったため、お尻に鈍い痛みが響く。流れそうになる涙をこらえるように強く目を閉じ、深呼吸してから目を開いた。何度かそれを繰り返せば段々と落ち着いていき、気分を変えようと川を覗き込んだ。
 川の中では、優雅に鯉が泳いでいた。赤や白といった観賞用の鯉ではなく、自然を生きる暗い色の鯉。目を細めて行く先を眺めていたが、ふとイケないことをしている気分になって目を逸らした。

 人に見られるのが嫌だ。なにか間違っていたときに指摘されるのも、指摘されないまま惨めな思いをするのも嫌だから。評価を、値踏みをされているような気がして落ち着かなくなるから。
 なのに今の僕はどうだ。鯉に対して評価し、価値を決めつけた。価値をつけるのは、自分より下のやつを見つけて自分を安心させるためだ。結局、下には下がいると知らなければ誰も頑張れないのだ。
 誰もがみんな、知らぬうちに人や自分を選別し、評価して価値を決め、それを売り込んでいるのだ。それが例え欠点だとしても、見る人によっては最高のスパイスだ。
 さて、なにもできない僕はみんなと同じようになれるのだろうか。

2/9/2026, 2:04:02 PM

【花束】

 ――将来はお花屋さんになりたいな。
 そんなふうに語っていた好きな子がいた。恋仲ではないが、友人関係と言うにはあまりにも距離が近い子が。

「また来たよ」

 そんな彼女に会いに行くときは、必ず何かしらの花束を抱えていく。彼女が好きと言っていた花、花言葉を必死に検索して選んだ花、なんとなく素敵だと思った花。その時持っていくものは完全に自分の気分次第ではあるが、全て彼女のことを想って選んだ花だ。
 そんな花束を無機質な石の前に置き、しゃがんでじっと見つめた。

「僕の想い、届いてるかなぁ?」

 長年片想いし続けたが、それは叶うことがなかった。彼女は数年前に交通事故に巻き込まれて亡くなり、手の届かない存在になってしまった。だから、唯一知っている彼女の夢の為に花束を贈り続ける。
 死者を思い出すとき、その人の下には花弁が舞うらしいから。彼女の為に花束を、花弁を贈る。

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