阿呆鳥

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【待ってて】

 待ち合わせには10分前に着くようにしている。相手を待たせたくないし、相手を待たせた時の罪悪感が酷いからだ。それに反し、私の友人たちはよく遅れてくる。それも連絡なしに。最初は少しの怒りと心配があったが、最近は慣れてしまって、こちらから連絡をするようにしている。

『もう着いた。ゆっくりでいいけど、なるはやで』

 冗談のように矛盾した言葉を並べ、誤字がないことを確認してから送信ボタンを押した。数分後に電話がかかってきて、息を切らせた様子で早口でまくしたてられる。

「ごめん、すぐいくから待ってて! 寝坊した!」
「そんなことだろうと思った。気をつけてね」
「まじごめーん!」

 笑いながら電話を切ると、近くのベンチに腰掛けてイヤホンをつけた。音楽を流しながらSNSを徘徊し、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。

 ふと時計を見れば1時間が経過していた。いくら寝坊して身支度に時間がかかったとしても、1時間はかからないだろう。不安で電話をかけるも繋がらない。何回鳴らしても機械音が繰り返すだけで、明るい声は聞こえてこなかった。
 とうとう友情関係の崩壊だと思って帰ろうとすれば、交差点に人だかりと、大きなトラックが不自然に止まっていた。周りの様子から察するに事故だろう。怖い物見たさで、人混みを掻き分けて前の方に出た。腕や足が不自然な方向に曲がった人らしきものが転がっていた。
 唐突に吐き気に襲われ、それを堪えながら近くの日陰に避難した。あの人らしきものは見覚えがある。機能まで一緒に笑い、今の今まで私が待っていた人物だ。収まらない吐き気と、溢れてきた涙を誤魔化すように俯いて深呼吸を繰り返した。

 その後のことは覚えていない。どうやって家に帰ったのかも分からないし、気づいたら友人の葬儀は終わっていた。いつも私を待たせていた友人は、私を待つ側に回ってしまったようだ。
 しかし、私の時間は待ち合わせたときの頃のまま動いていない。毎日のようにあの待ち合わせ場所へ行き、1時間ほど何かを待っている。彼女の最後の言葉に囚われたまま、私はいつまでも友人を待ち続けるのだ。

2/14/2026, 12:38:04 AM