ふと、前を歩く友人の後ろ姿を見る。その背中は、初めて会ったときに比べると随分と小さくなっているような気がした。
もし何か大事があったとき、目の前の優しい心の持ち主は私を頼ってくれるのだろうか?
きっと心配させないように最期まで隠し通すのだろう。そして誰にも見つからない場所でそっと眠るのだろう。それが最善策だと信じて。
けどそんな終わり方は私が許さない。手を差し伸べられたあの日から、私はこの人と共に歩くと決めたのだ。
「ねえ、行かないでよ」
随分と前に行ってしまった背中に呼びかける。
「大丈夫。ボクは何処にも行かないよ」
そう振り返って笑いかける友人は少し寂しげで、やはり何処か遠くへ行ってしまうような気がした。
私は友人に追いつくと、遠くに行かないようにその袖を強く握り締めた。
【行かないで】🎼
初めてこの地に来たとき、この広い広い青空に心を奪われた。どこまでも続く空を見て、自分もどこまでも飛んでいけるような気がした。
それからだろう。旅が好きになったのは。各地を飛び回り、沢山の美しいものを見てきた。
いつしか鞄の中は旅先の珍しい品物や、綺麗な景色の写真でいっぱいになっていた。
今はもう疲れ果ててしまって旅をすることはなくなってしまった。しかし鞄を覗けば数々の旅の記憶が残っている。
今日もここから青空を見上げ続けよう。初めて見たときと変わらない広い空を。旅の日々を追想しながら。
【どこまでも続く青い空】📷
最近、気温が下がってきた。
そう気付いたのはあたしの家に来る人達の服装が暖かいものに変わっていたからだ。
「え、気付いてなかったの」
ほとんど毎日あたしの家に来ては、料理やその他の消耗品、外での出来事を置いてゆく変り者の友人が、呆れたような驚いたような声を上げる。
「だって此処は常に気温が変わらないもの。最後に外に出たのはアイツのとこに行ったぐらいだし」
そう言いながら今日はアイツの所に行く日だということを思い出す。
帰っていく友人を見送り、私は棚の底から服を取り出す。
アイツとお揃いのシャツと、アイツが似合っていると言ったズボンと靴を身に着けた後、少し気恥ずかしくなり、ズボンまで隠れる長い上着を羽織って服を隠した。
アイツのことだし、これじゃバレそうだが…なんて思いながら久し振りに重めの扉を開いた。
【衣替え】📚
孤独だった私に貴方は手を差し伸べてくれた。
他人と違う私に貴方は優しくしてくれた。
私は、貴方に救われた。
だから、今度は私の番だ。
きっと貴方を救ってみせる。そう決めたの。
貴方を探し続ける。体が壊れるまで。
貴方を呼び続ける。声が枯れるまで。
【声が枯れるまで】🎼
ザァァ…
雨音で目が覚めた。ふと外を見ると昨日より雨が強くなっていた。
ボクはベッドから起き上がり顔を洗い、歯を磨きながらパンを焼いて、服を着替える。
雨で広がった髪を一つにまとめ、髪飾りを留めたところでノックの音が響く。
きつね色に焼き上がったパンを皿に乗せ、いつの間にか座っていた友人の前に皿を置き、自分もテーブルに皿を置きながら席に着く。
「こんな天気じゃ今日は来ないと思った」
「あなたと一緒に朝食を食べないと一日が始まった気がしないから」
そう言って微笑みながらパンを頬張る。
あぁ、いつもの朝が始まった。そう思いながらパンを口に入れた。
【始まりはいつも】🏵️