赤い糸
私には赤い糸が見える。
赤い糸は運命のパートナーと言うけれど、案外赤い糸が繋がってないパートナーもいる。
でも上手くやれているようで、絶対にその人じゃないとだめ!というわけではないらしい。
赤い糸は常に見えてるわけじゃなくて、運命の人同士が近くにいるほど見えやすくなる。
さて、そんな私は出会ってしまった。
何にって、赤い糸が繋がった先の人。
駅の構内で、糸が引っ張られていくのが見えた。
辿った先には、一人の男性。
印象は普通の男の人。
スーツを着ていて、仕事帰りみたいで、もちろん私のことなんて気にする素振りもなく歩いている。
え、どうしよう。
まさかこんな所で出会うなんて思ってなかった。
戸惑っていると、一人の女性が手を振りながら彼に歩み寄りそのまま腕を組んだ。
楽しそうに笑う二人はどう見ても恋人同士。
赤い糸はもちろん繋がってない。
でも、どう見たって幸せそうだ。
私の運命のパートナーさんは、自分の幸せを見つけていたみたいだ。
運命って、思ってたより劇的じゃないよね。
彼らとは反対方向に向かって歩き出した。
私の愛する人との待ち合わせに向かった。
入道雲
夏だね!と君が入道雲を指差した。
夏の空の青さと、入道雲の白と、君の笑顔に光る汗。
このめまいは暑さのせいでしょうか。
それとも、夏の魔法のせいでしょうか。
夏
暑くて、汗が肌にまとわりついて、もう嫌だっていつも思うけど
あの空の蒼さに、いつも救われてしまう
ここではないどこか
逃げてもいいよ
それはあなたが弱いわけじゃない
かれらにあなたが負けたわけじゃない
あなたは、あなたに相応しい場所へ行くんだよ
楽しく笑って、大きく深呼吸できる場所
それを見つけられたら、人生は素晴らしいときっと思えるから
ここではないどこかへ、旅立とう
君と最後に会った日
一目で君だと分かった。
中学生だった僕は、君のことが好きだったのに声をかける勇気もなかった。
笑うときに、髪を耳にかける仕草が可愛いと思った。
大人になった君は小さな命をその手に抱えてた。
守るように、慈しむように触れるその手や瞳が、あの頃の君とはもう違うのだと教えた。
けれど、大切に未来を育む君がとても美しく見えた。
君が手を振った先の男性が駆け寄る姿を見届けて、僕は背を向けて歩き出す。
髪を耳にかける君の姿は、思い出の中だけにしまい込んだ。