特に夜更かしした記憶もない日に限って
なぜか起きられない朝
休んでしまいたい衝動と戦いつつ
どうにか外に出られるレベルの顔を作って
30分で家を出た
今日はたまに遅刻してくる教授の講義
いつかの友人のように
私も先生の遅刻の恩恵にあずかりたい
どうか頼む、奇跡よ起これ
【奇跡をもう一度】
誰そ彼
燃え上がる街並みに溶ける君は
まるで知らない、他人のようで
雨も火も銃弾も
神の名のもとに平等は約束されない
なんの罪を犯して
何の責を負って
それでも、時間だけが平等だ
君も、僕も、故郷も、思い出も、
世界すらこの赤に溶けて消えても
もう君ともわからぬ影を追って
僕ももうすぐ、この赤に溶ける
【たそがれ】
響くのは、容赦のない電子音
朝日が差し込み、今日という世界に目覚める
そんな優しい朝など、久しく、迎えた覚えはない
起きたところで何になる
起きたところで何ができる
いてもいなくても、何も変わりやしないのに
なんて。
たまったもんじゃないと、液晶を叩く
静まり返った部屋のなか
布が擦れる音だけが響く
まだ、まだ、もう少しだけ
諦念と無気力を握りしめて
つかの間の微睡みに身を委ねる
繰り返す。この息が続く限り
何も成せない、この身を引き摺って
それでも世界にしがみつく
きっと、きっと、
きっと、明日も
【きっと明日も】
誰に気づかれることもなく
デジタル数字が時を刻む
暗闇のなか
横たわるのは静寂と
停滞した誰かの時そのもの
世界から誰が消えても
秒針すら消えても
今この瞬間、私が消えても
世界は気にもとめず、気づくこともない
ひとつため息をつく
沈むスプリングだけが存在を証明する
【静寂に包まれた部屋】
手を離した、その呆気なさに愕然とする
一人になった途端、独りにされた途端
夕焼けに追い立てられるように
走る、はしる、
夕日に焼き尽くされた街はまるで戦場のようで
机上でしか生きられない
いつかの時代のどこかの誰か
悲痛な叫びが、脳裏を過ぎる
戦争にロマンスを見いだせるなんて滑稽だ
それでも、命は散り際こそ美しいと
消耗品に成り下がった、尊かったものたち
誰かが生きるために駆けたかもしれない
怒号と悲鳴と泣き声と、痙攣する心臓を叱咤して
向かう道
先をゆくのは先人の影
暗闇に溶ける
やがて辿り着く
その向こう側へ
【別れ際に】